病が「束」で来る理由も見えてくる

この見方は、私たちが身近に感じる医療の悩みにも、すっきりした答えをくれます。
年を取ると、病気はたいてい一つでは済みません。心臓が悪い人は、糖尿病も抱え、脳卒中のリスクも高く、がんとも無縁ではない。いくつもの病がひとりの体に重なる——これを医療の世界では「多病」と呼びます。
なぜ、病は束になって押し寄せるのか。
昔は、たまたま別々の臓器が別々に弱っていくのだと考えられがちでした。でも、この論文の見方は違います。
これらの病の多くは、もとをたどれば、あの2つの副作用——「老後だけ害を出す変異が溜まったせい」と「若さに役立つ遺伝子が老後に牙をむくせい」——が作った、共通の根っこから生えた枝葉なのだと捉えます。
実際、発症する年齢が近い病気どうしほど、遺伝的に強く結びついていることが分かっています。さらに、62の複雑な病気を調べた大規模分析では、繁殖力と有意に関連する病気のうち87%が「繁殖力を高める方向」と結びついていました。
つまり、老後の病の大半は、若い頃の生殖を助けた遺伝子の「副作用」である可能性が浮かび上がったのです。
そしてこの切り口は、老化に対抗する希望にもなり得ます。
老化が、あらかじめ体に仕込まれた”時限装置”だったら、私たちにはどうしようもありません。
変えようのない運命です。
でも、老化がただの副作用なら——話は変わります。
いくつもの病が共通の根っこから生えているのなら、病気を一つずつ追いかけ回すのではなく、その根っこ、つまり老化の大もとの仕組みを叩けばいいからです。
そうすれば、複数の病気をまとめて遠ざけられるかもしれません。
実際、老化の目印に関わる病気どうしは、約301万人の患者データの中で、偶然とは思えないほど同じ人に重なって現れていました。
こうした理解は、老いの捉え方を大きく変える視点です。
老いは、体の設計ミスでも、あらかじめ仕組まれた運命でもありませんでした。
進化が若さのために丹精込めて磨き上げた仕組みが、期限切れのあとも動き続け、今度は体を蝕む側に回ってしまった——それが老いの正体でした。
正体が分かれば、薄める道も見えてきます。
研究に携わったパートリッジ教授は「目指すのは、ただ寿命を延ばすことではありません。若い時期のために最適化された体の『老後のツケ』を和らげ、人生のより多くの時間を健康に過ごせるようにすることです」と述べています。
もしかしたら未来の世界では、高齢者に対して遺伝子の働き方を変えることで老化の悪影響を一掃するような薬が、長寿薬として薬局に売られているかもしれません。


























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