脱出ポッドの射出装置がクラゲの針にも仕込まれている

実のところ、チームが数ある物質のなかから納豆のネバネバ(γ-PGA)に目をつけられたのには、理由がありました。
手本があったのです。
クラゲです。
クラゲに刺されると痛いのは、触手の表面に、顕微鏡でしか見えない発射装置がびっしり埋まっているからです。
中には毒針が、きつくきつく巻きこまれています。
その発射装置に詰まっていたものが、同じネバネバ成分のγ-PGAでした。
旅支度をすませた細胞が糸を吐いていると分かったとき、チームの頭にはすでに、この毒針が浮かんでいたのです。
だとすれば細菌も、同じ物質で似たようなことをやっているのではないか——そう見当をつけて確かめにいった結果が、あの「脱出」でした。
クラゲの場合、カプセルの中は酸っぱい水で満たされています。
この状態だと、糸は互いにぴったり寄り添い、小さく畳まれたままでいられます。
ところが引き金が引かれて水が流れこみ、酸っぱさが薄まると、糸の一本一本が磁石のように反発しはじめます。
同じ極を近づけたときの、あの押し返す感じです。
糸はいっせいに離れようとし、同時に水を吸ってふくれあがり、その力が毒針を叩き出すのです。
チームは、この理屈をそのまま細菌で試しました。
糸を多めに作るようにした要塞に流す水を、酸っぱい水とふつうの水で交互に切り替えたのです。
結果、要塞は予想どおりに、呼吸するように伸び縮みしました。
細菌の糸は、クラゲの糸と同じ電気の理屈で動いていたのです。
クラゲと細菌は、生き物の家系図をたどると、途方もなく遠い親戚です。
共通の先祖にたどり着くには、気が遠くなるほど遡らなければなりません。
それでも両者は、同じ糸にたどり着きました。
片方は毒針を撃つために。
もう片方は、仲間を撃つために。
次に納豆の蓋を開けたとき、箸から伸びるあの糸を、少しだけ長く眺めてみてください。
条件がほんの少し違えば、同じ糸がクラゲの毒針を撃ち、細菌の脱出ポッドを飛ばすのですから。






























