ため息には「覚醒」や「集中力」を高める効果は見られなかった
視覚課題ではため息が平均1分間に0.63回、聴覚課題の自然呼吸群では0.45回、誘導呼吸群では0.17回検出されました。
自然呼吸をしていた2群では、課題の時間が進むほど呼吸速度と呼吸の深さの総変動が大きくなり、ため息も増えていました。
さらに、ため息の前後を比べると、その後には呼吸速度と深さの総変動がともに有意に低下しました。
つまり、ため息の後には呼吸の揺れ幅が一時的に小さくなったのです。
呼吸の深さでは、ため息後に隣り合う呼吸が似た並び方をするようになり、時間的なまとまりも強まりました。
ただし、呼吸速度のまとまりは一様には回復せず、視覚課題ではため息後にむしろ低下し、聴覚課題の自然呼吸群では有意な変化がありませんでした。
このため、ため息は呼吸全体を一定のリズムへ戻すというより、増大した総変動を短期的に調整し、とりわけ呼吸の深さの並びを整える可能性があります。
また誘導呼吸群では、呼吸速度が音のリズムによって強く制約され、ため息も自然呼吸群より少なくなっていました。
ただし、この群でも呼吸の変動自体は課題中に変化しており、「変動が生じなかった」という意味ではありません。
自然呼吸群で見られたような、ため息を境とするリセット様の変化が確認されなかったという結果です。
さらに視覚課題では、呼吸が不規則に現れる画面上の刺激と強く同期する人ほど、呼吸の総変動が大きく、ため息も多い傾向がありました。
外部刺激に呼吸が同調することと、ため息の発生が結びついている可能性があります。
こうした違いをまとめると、今回の研究から導かれる結論は次のようになります。
すなわち、ため息は、「長時間の課題で徐々に増大した呼吸のばらつきを、その場で一時的にリセットする調整機構」として働いている可能性が高いということです。
また、外部から呼吸リズムが強く規定されている場合(誘導呼吸)には、そもそもため息の発生頻度が低下し、自然呼吸で見られたような「ため息を境とした変化」が起こりにくくなります。
したがって、ため息は固定的な生理反応というより、呼吸が自律的に揺らぎながら環境や課題負荷に適応している中で、その揺らぎを局所的に整える“柔軟な調整メカニズム”であると考えられます。
ちなみに、ため息の周囲では瞳孔径も変化しましたが、その形はグループごとに異なり、多重比較を補正すると通常呼吸との差は有意ではなくなりました。
したがって、ため息が覚醒を調整するという見方は、現段階では探索的な可能性にとどまります。
さらに、ため息後に反応時間が速くなったり、主観的な集中が高まったりする変化も確認されませんでした。
私たちが何気なくしているため息には、実は「呼吸の乱れをそっと整える」という小さな秘密が隠されていたのです。
































