100年以上前の標本を調べ直すと「名前の間違い」が発覚
問題のカエルは長年、「プリスティマンティス・スブシギラトゥス(Pristimantis subsigillatus)」という種だと考えられてきました。
この名前は1902年に記載されたもので、その後、西エクアドルなどに生息する似たカエルたちにも使われるようになりました。
ところが研究チームが、ロンドン自然史博物館に保存されているP. subsigillatusのホロタイプを詳しく調べ直したところ、奇妙な事実が浮かび上がります。
ホロタイプとは、その学名がどの生物を指すのかを決める「基準」となる標本です。
比較の結果、この100年以上前の標本は、現在P. subsigillatusと呼ばれているカエルたちとは形態が一致していませんでした。
さらにこの標本は、1898年にすでに記載されていた「プリスティマンティス・ラティディスクス(Pristimantis latidiscus)」と同じ種であると判断されました。
つまり本来のP. subsigillatusは、P. latidiscusと同種であり、後から付けられたP. subsigillatusという名前は後発異名となります。
すると今度は、これまでP. subsigillatusと呼ばれてきた多数のカエルが「では一体何という種なのか」という問題が生じました。
身近にいたカエルが、分類学上は「存在していなかった」
チームはそこで、野外調査や標本の比較、DNA解析、鳴き声の分析を行い、このカエルの正体を改めて調べました。
その結果、近縁種とは形態や遺伝子の両面で区別できる未記載種であることが判明し、新たに「プリスティマンティス・ミルペ(Pristimantis milpe)」と命名されました。
体長はオスでおよそ24~27ミリ、メスで32~36ミリほどと小さく、メスの鼠径部や太ももにはオレンジ色や淡い青色と黒い斑点を組み合わせた特徴的な模様があります。
夜になると植物の上などから、短い「カチッ」というクリック音のような鳴き声を発します。
しかもP. milpeは極端に珍しいカエルではありません。
推定される分布範囲は約6万7000平方キロメートルに及び、森林だけでなく二次林、バナナ農園、さらには都市部の公園などでも確認されています。
場所によっては個体数も多く、大きな鳴き声を出すため、存在そのものが見つけにくかったわけでもありませんでした。
それでも新種として認識されなかった理由は、過去に生じた学名の取り違えがその後の研究でも引き継がれ、基準標本と自然界の個体群との対応が長く見直されなかったためです。
今回の発見は、「新種とは、人類がこれまで見たことのない生物とは限らない」ことを示す好例です。
P. milpeは人の生活圏のすぐそばで何十年も観察され、研究されてきたにもかかわらず、分類学上では別の種の名前を借りたまま存在していました。
博物館に眠る100年以上前の標本をもう一度確認したことで、ようやくその本当の正体が見えてきたのです。
600種以上が知られるPristimantis属では、今後ほかにも同じような「身近なのに名前を間違えられている種」が見つかる可能性があります。




















