「好きな人」の矢印を調べる

舞台となったのは、オランダ北部の田園地帯にある中等学校(日本の中学・高校にあたる学校)です。
全校生徒2159人のうち1895人が調査に参加し、平均年齢は14.8歳でした。
調査は2014年11月、教室で紙の質問票に答える形で行われました。
使われたのは、人と人のつながりを矢印の網の目として描き出す方法(社会ネットワーク分析)です。
生徒に配られたのは、全校生徒の一覧表でした。
一覧表では一人ひとりに番号が振られていて、生徒は質問に当てはまる相手の番号を、人数の制限なく書き込んでいきます。
質問は「好きな人、気になっている人、付き合いたい人は誰ですか」に加えて「人気者は誰か」「見た目がいいのは誰か」「よく言い争いやケンカを起こすのは誰か」「よく人のうわさや悪口を広めるのは誰か」「親友は誰か」などが尋ねました。
修学旅行でいえば、全部の部屋の恋バナを一晩で集め、名前どうしを線で結んでいくようなものです。
こうして学校じゅうに引かれた矢印を数えると、好きな人の番号を1人以上書いた生徒は669人で、全体の約35%であることがわかりました。
そしてこの好きな人がいる人の中で相手からも番号を書かれていた両想いの生徒はわずか11.8%(79人)だけでした。
それ以外の生徒の矢印は、相手に向かったきり、1本も返ってきていませんでした。
反対に、自分は誰の番号も書いていないのに、誰かから好きな人として番号を書かれていた生徒も、全体の2割余りいました。
学校じゅうの「好き」の矢印は、その多くがすれ違っていたのです。
なお、交際中の相手は除いて尋ねているので、すでに実った恋は、この12%の外にあります。
片思いの矢印は、どんな生徒に集まっていたのでしょうか?
定番のイメージでは、好きな人に選ばれるのは、みんなが認める美男美女や人気者です。
ところが、多くの生徒から「見た目がいい」と評される生徒も、多くの生徒から「人気者」と見られている生徒も、好きな人に選ばれやすいわけではありませんでした。
見た目については、選ぶ本人が「見た目がいい」と思っている相手でさえ、選ばれやすいとはいえなかったのです。
代わりに親友として名前を挙げられる数が多い生徒ほど、誰かの好きな人に選ばれやすくなっていました。
また自分が「人気者だ」と思っている人を「好きな人」に選ぶ確率は、そう思っていない相手の約3倍であることもわかりました。
論文は、片思いを動かしているのは学校全体の評判よりも、日々のやりとりから生まれる一人ひとりの印象なのかもしれないと述べています。
さらに興味深いことに、自分の目に「よく言い争いやケンカを起こす子」と映っている相手を選ぶ確率も、そう映っていない相手の約2倍「好きな人」を向けられやすいことがわかりました。
思春期の初めには、こうした振る舞いが単なる乱暴さではなく、押しの強さや仲間内での強さの表れとして受け止められているのではないか、と研究者たちは考えています。
ここまでは矢印を受け取る側の話でしたが、論文では矢印を出す側にも、はっきりした偏りがみつかりました。
多くの生徒から人気者と見られている生徒ほど「好きな人」とする人数が少なかったのです。
人気者は仲間内での立場を守るため、相手を慎重に絞り込んでいるのだろう、というのが研究チームの見立てです。
反対に、多くの生徒から「見た目がいい」と評される生徒ほど、好きな人を多く挙げていました。
見た目の評判が効いていたのは、好かれる側ではなく、好きになる側だったのです。
論文は、見た目がいいと評判の生徒ほど自信があり、人に好意を向けることに気後れしにくいのではないかと考察しています。
また興味深いことに、多くの生徒から「よく人のうわさや悪口を広める」と見られている生徒ほど、好きな人の矢印を多く出していました。
とくに男子ではっきり出た傾向で、受け取る矢印が増えていたわけではありません。
研究チームは、これを恋の相手を探す積極さの表れとみています。





















