2つの古代のヘモグロビンの比較
この調査のために、研究チームは2つの古代のヘモグロビンの遺伝的な違いを明らかにすることにしました。
1つは、約2000万年前に分化した、ペンギンたちの共通の祖先です。
もう1つは、約6000万年前、ペンギンの共通の祖先と近縁でありながら、潜水するようにはならなかったアホウドリなどの海鳥の系統です。
考え方としては単純で、この2つのヘモグロビンの違いは、ペンギンが潜水をおこなうために必要となった進化の痕跡と捉えることができます。
もちろん、現代には存在しない2つの古いヘモグロビン遺伝子を比較することは、簡単なことではありません。
研究チームは、現代の鳥類のヘモグロビン遺伝子配列を考慮したモデルを作り、そこから2つの対応する配列を推定して復元させました。
そして、この復元された配列を大腸菌につなぎ合わせて、パフォーマンスを評価する実験を行ったのです。
その結果、チームはペンギンの祖先のヘモグロビンは、潜水しない鳥類の祖先が血中に持つものに比べて、容易に酸素を捕獲できるという事実を発見したのです。
酸素に対するその強い親和性は、肺から余すことなく酸素を取り込みます。これは水中潜航時に、一呼吸で十分な酸素を取り込むために非常に重要だったと考えられます。
酸素と親和性の高いヘモグロビンは、強力な磁石のように酸素と結合するため、肺から酸素を引き抜くとき有効に働きますが、そのせいで細胞へ酸素を受け渡すことが困難になります。
これはちょっと困った問題のようにも見えますが、実際はこれもペンギンの潜水能力が優れいている事実と関連づいています。
ヘモグロビンが酸素と結びつくか、手放すかという問題は血中の酸素濃度と二酸化炭素濃度によって決定されています。
ペンギンの祖先のヘモグロビンは周囲のpH(酸性度)に対して、より敏感で酸性度の上昇に応じて酸素をより放出しやすくなっていました。
これはつまり、体内でより酸素を必要としている、一生懸命働いている組織に対して優先的により多くの酸素を与えるように機能します。
「それは本当に美しいシステムです」研究チームの1人、ネブラスカ大学の生物学者アンソニー・シニョーレ氏はそのように語っています。
pHがたとえば0.2単位で低下すると、ペンギンのヘモグロビンは、陸上の動物よりも働きが低下します。
ペンギンは、海へ出たとき利用可能な酸素を最大限に活かせるように、血中のヘモグロビンが他の生物とは異なる進化を遂げていました。
陸ではなんだかぼんやりして見えるペンギンですが、その血液には驚くべきスイマーとしての能力が潜んでいるのです。