体の分岐と同時に「内臓」も枝分かれしていた!
R. multicaudataは、オーストラリア北海岸の水深20メートル付近に分布する、環形動物・多毛類・シリス科のワームです。
2006年に初めて発見され、2012年に正式に新種として記載されました。
海綿に寄生して、常に頭を埋め込んだ状態にあり、成長するにつれて、毛の生えた体を海綿の空洞や溝に沿って伸ばしていきます。
表面にはお尻の部分だけが突き出ており、顔は見えません。
本種は非常に不思議なワームであり、発見以来、専門家を悩ませてきました。
というのも、体がもろく、すぐにバラバラになってしまうので、解剖して調査するのが難しいのです。
しかし、研究チームは今回、X線CTや共焦点レーザー顕微鏡、電子顕微鏡、組織学などを組み合わせた苦心の末、内部構造の解明に初成功しました。
分析の結果、ワームの体が枝状に分裂すると、その中の内臓も一緒に分岐することが確認できたのです。
分岐した消化管は、新たに枝分かれした体にも伸び広がっていました。
興味深いことに、ワームは、この特異性を実現するため、他の生物には見られない解剖学的構造を持っていました。
チームはそれを「マッスルブリッジ(筋肉の架け橋)」と呼んでいます。
マッスルブリッジは、体が枝分かれした箇所に形成され、分岐した器官の間を横断していました。
また、これはワームが幼生期ではなく成熟期に分裂したことを示す証拠でもあり、それを調べることで、どの枝が古い枝で、どの枝が新しく分裂した枝かを追跡できるとのこと。
これはワームの成長を理解するのに非常に有用です。
さらに、本種は、「ストロン」と呼ばれる配偶子(生殖細胞の一つ)を含む枝葉を切り離すことで繁殖するのですが、今回、このストロンが親ワームに付着したまま脳や目を発達させられることが判明しました。
脳や目は、親から切り離された後の自律的な行動に有用と思われます。
一方で、研究主任のマイテ・アグアド氏は「本種を完全に理解するには、まだ長い道のりがある」と話します。
たとえば、頭を海綿に埋め込んでいるワームが何をどうやって食べているのか分かっていませんし、腸が実際に機能している様子も観察されていません。
枝分かれした数だけ存在するお尻も、いかに機能するのか不明です。
アグアド氏は「今回判明した体の構造を土台にして、生態の調査を続けていきたい」と述べています。