AIが3000件のパブに電話をかけ、ギネスビールの値段を尋ねる
この取り組みの出発点は、とても個人的な不満でした。
開発者であるアメリカ人エンジニアのマット・コートランド氏は、ある日ギネスビール1杯に7.80ユーロ(約1430円)を支払ったことに強い違和感を覚えます。
「これは高すぎるのではないか?」
そう感じた彼は、単なる愚痴で終わらせず、もっと大きな疑問にたどり着きました。
ギネスビールが生まれたアイルランドでは、ギネスビールの価格が店によってかなり違うのに、その実態を示す最新の公的データはほとんどありません。
アイルランド中央統計局は2001年から2011年までパイント(容量の単位。ビール一杯の標準量)価格を追っていましたが、その後は追跡をやめており、約14年間の空白が生まれていたのです。
そこでコートランド氏は、自分で価格を集めてしまおうと考えました。
ただし、対象は全国規模です。
人手でも不可能ではないにせよ、短期間で数千軒を調べるには、膨大な手間と費用がかかります。
そこで使われたのがAIでした。
彼が作ったAIエージェント「レイチェル」は、自然な北アイルランド訛りの女性の声でパブに電話をかけ、「ギネス1杯の値段はいくらですか?」と尋ねる役を担いました。
使われたのは、会話音声を作るAI、電話をかける仕組み、パブの所在地や連絡先を整理する地図サービス、そして通話内容から価格を抜き出す別のAIです。
つまり、話すAI、電話する仕組み、読み取るAIを組み合わせた自動調査システムを開発したのです。
しかも、このシステムはかなり細かく調整されていました。
最初のバージョンでは、相手が答えた価格をレイチェルが復唱して確認していました。
しかし、それをすると会話が長引き、相手が不審に思うケースが増えます。
そこで最終的には、「質問する」「お礼を言う」「切る」という、ごく短いやり取りに絞られました。
また、AIかどうか尋ねられたときには正直に答える設計だったものの、自分から名乗ることはしないようにしました。
こうしてレイチェルは、ある週末だけで3000超のパブへ電話をかけ、そのうち2052件が応答し、そのうち1000件以上の検証済み価格データが集まりました。
しかもこの一連の作業にかかった費用は、わずか200ユーロ(3万6600円)ほどだったとされています。
人が同じことをしようとすれば、もっと時間も人手も必要だったでしょう。
そしてこの調査でまず分かったのは、ギネスビール1杯の平均価格が5.95ユーロであり、最もよく見られた価格は5.50ユーロだったことです。
しかも、お店のほとんどの人は、電話相手をAIだとは気づいていませんでした。
では、彼らはAIからの電話にどんな反応を示したのでしょうか。
より詳しい結果と興味深いやり取りを、次項で見ていきます。
























![よーく聞いてね!3つのヒントで学ぶ!れんそうカード ([バラエティ])](https://m.media-amazon.com/images/I/61PoJqr3IkL._SL500_.jpg)























