女性は「神の目を持つ預言者」だった?
この義眼を研究する専門家たちはもれなく、その繊細な職人技に驚かされてきました。
義眼には、幅0.5ミリにも満たない極小の毛細血管が「金」で施されており、中央正面には円形の瞳孔が彫られています。
さらに、周囲の白目の部分には白色の断片が見つかっており、眼球をリアルに再現するための彩色が施されていたようです。
これらの事実は、義眼の製作者が、眼球の解剖学的構造を研究し、よく理解していたことを示唆します。
また、女性の墓からは、義眼の他に、土器や装飾用ビーズ、宝石類、革製の袋や青銅製の鏡など、あらゆる副葬品が見つかっています。
こうした革や青銅、宝飾品は、社会的地位の高い人物の墓でしか見つかりません。
もし彼女が高い地位にあったなら、自らの外見を保つために義眼を必要とし、さらに、自分に合った義眼を作らせる財力も持っていたことに、説明がつくでしょう。
この点から、研究者は「この女性が王族の一人であったのではないか」と見ています。
これと別に研究者は、義眼に施された装飾にも注目しています。
先述したように、義眼には瞳孔や毛細血管が再現されていますが、一方で、その模様は完全に人の目に似せたものではありません。
瞳孔からは縦・横・斜めと放射状に8本の線が描きこまれており、研究者は「瞳孔と合わせて、太陽の光を思わせるもの」と解説。
周囲の毛細血管が金で再現されていることも、この解釈に説得力を持たせています。
それゆえ、研究者らは「義眼には”未来を見通す”といったような意味合いが込められ、女性は巫女や呪い師のような存在だった可能性もある」と述べています。
シャフレ・ソフテ遺跡では他に義眼が見つかっていないので何とも言えませんが、この女性は「神の目を持つ預言者」として崇められたのかもしれません。