個々の細胞には「複数の情報から自律的に判断する能力」がある
個々の細胞がどのように働くか理解することは、医療などさまざまな分野で役立ちます。
例えばがんは、細胞がもつ増殖因子が暴走し、無限増殖することで体中に転移します。
そのため個々の細胞がどのような情報を元に「増殖する・しない」の決定を下しているのか把握できるなら、新たながん治療の確立に役立つはずです。
そこでペークマンス氏ら研究チームは、1つの細胞が意思決定に至るプロセスを調べることにしました。
個々の細胞が非常に単純なメカニズムで動いているのであれば、簡単な測定で済むでしょう。
しかし、個々の細胞は人間のようにマルチに情報収集している可能性があります。
そのため、対象となる細胞の内部(細胞小器官など)だけでなく、細胞外の情報を取得する「外部センサー」の働きを同時に測定する必要がありました。
また、より正確で総合的な結果を出すため、数百万個にわたって細胞を分析する必要もありました。
そのために研究チームは、チューリッヒ大学で開発された「4i」と呼ばれる特殊な方法を採用。
研究チームによると、「この方法では、蛍光顕微鏡を用いて個々の細胞に含まれる最大80種類のタンパク質を同時に可視化・定量化できる」とのこと。
測定の結果、1つの細胞は、細胞内部と外部のさまざまな情報を使って、総合的に物事を判断を下していることが分かりました。
たとえば、細胞内にはエネルギーの発電所たるミトコンドリアがいますが、その存在量も細胞は監視しており、その情報を含めた細胞内のさまざまな状況と外部センサーからの情報とを複合的に利用して「増殖する・しない」の判断を行っていたのです。
そのためチームは次のように結論付けています。
「1つの細胞は、複数の情報を使い、状況に応じた適切な判断を下すことができるようです。それはこれまで考えられてきた以上に複雑なものであり、彼らは想像以上に賢い存在なのです」
この結果は、細胞が変異する原因を突き止めたり、治療したりするのに役立つでしょう。
私たちの中では「単細胞は単純で賢くない」というイメージが定着していますが、実は、「思ったより賢い」存在だったと分かりますね。
これからは「あなたは本当に単細胞よね」と言われた場合も、「複数の情報から正確な判断を導き出すわよね」という誉め言葉として受け取ってもいいかもしれません。