アルツハイマー病の原因をアミロイドβとする重要論文での捏造疑惑の詳細
アルツハイマー病の原因をアミロイドβとする重要論文での捏造疑惑の詳細 / Credit: C. BICKEL/SCIENCE . Sylvain Lesné et al . A specific amyloid-β protein assembly in the brain impairs memory (2006) , Nature
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アルツハイマー病の原因をアミロイドβとする重要論文での捏造疑惑の詳細 (3/3)

2022.07.26 Tuesday

前ページ実験結果に「かなり雑な」改ざん痕跡がみられた

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論文を捏造しても病気の患者は救えない

論文を捏造しても病気の患者は救えない
論文を捏造しても病気の患者は救えない / Credit:Canva

今回シュラグ氏と『Science』の調査により、アルツハイマー病とアミロイドβにかかわる、極めて大規模な捏造疑惑が提起されました。

影響力の大きな論文は、その後に続く別の研究者たちの前提知識となるため、影響範囲は指数関数的に広がっていきます。

もしシュラグ氏らの調査結果通りの捏造が行われている場合、これまで16年間にわたりアルツハイマー病の研究に費やされてきた努力と莫大な投資が、その根拠を疑われることになるでしょう。

またアルツハイマー病の患者たちやその家族にとっても失われたものは大きいはずです。

そのため一部の海外メディアでは「本当ならば詐欺を超えた人道に対する罪だ」と述べています。

一方で調査により、過去にはレスネ氏の問題に気付いて発表直前に論文を撤回した研究者(ヴィヴィアン氏)も存在することが判明します。

ヴィヴィアン氏はいくつかの論文をレスネ氏と共に作成した過去を持ちますが、『Nature Neuroscience』に出す論文の最終改訂中にレスネ氏が提出した画像に違和感を覚え、他の学生に再現性があるかを確かめさせました。

結果、何度やってもレスネ氏のような画像は得られませんでした。

(※誰がやっても同じ結果になるという再現性は現代科学の基本です)

そのためヴィヴィアン氏は実験の正当性についてレスネ氏と対立することになり「科学的完全性を維持するために」直前で論文を撤回し、以後レスネ氏とのすべての接触を絶ったと述べています。

シュラグ氏はレスネ氏が関与していないヴィヴィアン氏やアッシュ氏の論文については、調査で問題点はみられなかったと報告しています。

この結果は、研究にレスネ氏がかかわらない限り、ヴィヴィアン氏やアッシュ氏などの論文は違法行為とみられるような改ざんが行われていないことを示唆します。

現在、シュラグ氏はレスネ氏が執筆にかかわった13の論文について、掲載した『Nature』科学誌に連絡し、いくつかは調査中にあるとのこと。

重用なのは、レスネ氏の疑いのせいで、アミロイドβ仮説を真面目に支持している研究者たちの論文まで被害が及ばないようにすることです。

アミロイドβ仮説を支持しているセルコエ氏は「アミロイドβ仮説が事実以上に不当に評価されることがないことを願う」と述べています。

科学の世界では嘘によって利益が得られやすい構造にあるのは事実です。

しかし将来の研究者候補たちに向けて最後にもう一度、シュラグ氏の言葉を紹介したいと思います。

「論文を作るために誤魔化すことができる。学位を取るために誤魔化すこともできる。助成金を得るために誤魔化すことも可能だ。しかし病気を治すには誤魔化しは効かない」

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