実験結果に「かなり雑な」改ざん痕跡がみられた
シュラグ氏が論文で最初に目をつけたのが、タンパク質の質量分析(ウェスタンブロッティング)を行うために撮影された画像でした。
一見すると黒いバンドが並ぶだけの画像に思えますが、上の数値はマウスの年齢を示しており、マウスが加齢するごとに、赤枠の点線で囲われたアミロイドβを意味する部分のバンドが増えていく様子が示されています。
シュラグ氏がこの部分を詳しく調べたところ、赤い点線で囲われたアミロイドβのバンドに不適切な改ざんの跡が発見されました。
また太い赤枠で囲われた部分のバンドを詳しく調べると、上のラインのバンドは下のラインのバンドを「コピペ」して色を薄くしたもの(あるいはその逆)である可能性が強く疑われました。
シュラグ氏らによれば、改ざんは「かなり雑」に行われており、比較的容易に判別可能だったと述べています。
ただシュラグ氏はこれらの疑わしい部分に対してまだ「詐欺」や「違法行為」といった言葉を使うことは避けており「レッドフラッグ(危険信号)」と表現しています。
最終的な結論を下すには、個人調査では限界があったからです。
そこでシュラグ氏は『Nature』と並ぶ科学雑誌として知られる『Science』に分析データを提出し、協力を願い出ます。
幸いなことにシュラグ氏の申し出は真面目に受け入れられ『Science』は2人の画像アナリストに対して、シュラグ氏の主張が正しいかどうかを判定してもらうことにしました。
結果、両者ともシュラグ氏の「画像が改ざんされている」との分析が正しいと結論します。
さらに画像アナリストのうちの1人は、シュラグ氏が見逃していた別の疑わしい画像を発見します。
その後もシュラグと画像アナリストたちはレスネ氏の調査を続け、20本以上の論文に疑わしい個所が特定されました。
『Science』はレスネ氏のかつてのボスであったアッシュ氏に対して疑惑に対する質問に答えるように依頼しましたが、残念なことに核心部分の返答は得られず「私はまだAβ56を信じている」とのコメントのみが返ってきました。