一卵性双生児の片割れが頭蓋内に現れていた
医師チームは、女児の頭蓋内に見つかった胎児の塊を「一絨毛膜二羊膜双胎(いちじゅうもうまくにようまくそうたい:MD双胎)」の発育不全の結果と診断しました。
胎児は通常、絨毛膜と羊膜という2つの膜に包まれ一つの胎盤に繋がって誕生します。二卵性双生児では通常胎児一人一人が2つの膜に包まれ別々の胎盤から栄養をもらいます。
しかし一卵性双生児は一つの卵がある段階で2つに分裂して誕生するため、受精後どのくらいの期間で卵が分かれたかにより双胎のタイプが異なってきます。
早い段階で分裂すれば、DD双胎というリスクの低い妊娠になりますが、少し期間が空くと一つの膜と胎盤を共有した状態のMD双胎になるのです。
MD双胎は、一卵性双生児の20〜30%に見られるといいます。
MD双胎では胎児の発育において片方の子が発育不全に陥るリスクが高くなってきます。
もちろん無事に生まれるケースもありますが、内10%は胎盤を共有するために血流のバランスが崩れ、片方の赤ちゃんの命に危険がおよぶ恐れもあるのです。
今回のケースでは、双子胚の成長のごく初期に一方の胎児がもう一方に取り込まれてしまう「胎児内胎児(または封入胎児:fetus in fetu)」というケースが起きたようです。
これは片方の胎児の発育が極端に悪いために、もう片方の体内に寄生しているような状態です。
しかしこうなると取り込まれた方の胎児はやがて発育を停止し、もう片方の胎児の中で塊として残されることになります。
この症例は50万人に1人の割合で発生すると推定されていますが、通常、取り込まれた側の胎児はもう一方の胎児の「腹部」に塊となって現れることが多いようです。
過去に文献上で報告されている約200件の症例のほとんどが腹部で確認されています。
ただ、この症例では腹部以外の場所に兄弟が取り込まれてしまうケースも少数ながら存在します。
中でも特に珍しいのが今回報告された頭蓋内に閉じ込められるケースで、この報告件数はわずか18件と言われています。
今回のケースは、まさにその数少ないうちの1件となりました。
医師の診断によると、今回報告された女児は明らかな運動能力の発達の遅延を示し、自立して座ることができなかったといいます。
また頭部の周囲は約56.5センチと同年齢の子どもより大幅に肥大していました。
(2008年の厚生労働省の調査によると、日本国内における1歳児の頭囲は男女ともに平均45センチ前後となっている)
そしてCTスキャンの結果、頭蓋内に女児の脳を圧迫する形で「胎児内胎児」が発見されたのです。
そのせいで女児の脳の一部に脊髄液が溜まる「水頭症」を引き起こしていました。
水頭症が進行すると頭囲が異常に大きくなり、眠気や発作を起こすことがあります。
幸いなことに、女児にはまだ頭蓋内の圧迫による発作や嘔吐感などの症状は見られませんでした。
結局、未発達の胎児の塊は外科手術によって無事に摘出され、DNA分析の結果、胎児は女児の一卵性双生児だったことが確認されています。
頭蓋内から摘出された胎児の写真画像はこちらから閲覧ください。
胎児には頭部と2本の腕が未発達の状態ではあるが確認でき、椎骨と2本の脚の骨(大腿骨と脛骨)が含まれていることが分かりました。
また腕の先には指が分化し、爪のようなものまで見られたという。
さらに医師たちは「女児が頭蓋内から胎児に血液を供給していたため、この寄生体は摘出されるまで生存していただろう」と指摘しました。
手術後の女児の健康状態に関する詳細は論文内で報告されていません。
記事内に掲載していた論文の資料画像を削除しました。