ファラオの墓にひそんでいた「死のカビ」
1920年代、エジプト・ルクソール近郊でツタンカーメン王の墓が発掘された際、関わった考古学者のうち数人が、発掘から数週間~数カ月のうちに原因不明の病気で亡くなりました。
その不可解な死は、当時「ファラオの呪い」として新聞をにぎわせました。
しかし時がたち、医学の進歩とともに見えてきたのは、ある“微生物”の存在です。
死の原因として浮かび上がった犯人は「アスペルギルス・フラバス(Aspergillus flavus)」という名前の有毒カビでした。
土の中や古い建物、長年密閉された空間などに潜み、胞子として空中に漂うこのカビは、吸い込んでしまうと肺に感染症を起こすことが知られています。
とくに免疫が弱っている人が感染すると命に関わることもあります。

その後も、このカビが関係していると思われる死亡例が世界各地で報告されています。
1970年代には、ポーランドで王族の墓を発掘していた科学者12人のうち10人が、調査後まもなく命を落としました。
のちに墓の内部からは、やはりアスペルギルス・フラバスが検出されたのです。
黄色い胞子を放つこのカビは、いまや“ファラオの呪いの正体”として認識されるようになりました。
長らく「呪われた微生物」として恐れられてきた存在が、まさか治療薬の希望に変わるとは、誰が想像したでしょうか。