マウスの染色体数を20対から19対に変更することに成功!
染色体は長いDNAがコイル状に巻き上げられたズングリとした構造をしています。
染色体の数は種によっておおむね一定の数に保たれていることが知られており、人間の場合は23対(46本)、マウスの場合は20対(40本)、ニワトリの場合は39対(78本)と決められています。
染色体数の変動は遺伝子レベルの変動に比べて非常に起こりにくく、自然界においてマウスなどのげっ歯類では100万年あたり3.2~3.5回、人間やサルなどの霊長類においてはわずか1.6回となっています。
ただ染色体数の変化が起きた場合の影響は大きく、多くの場合、元の種との間に子孫を作ることが難しくなってしまいます。
そのため染色体のまれな変化は、生命進化の原動力になりえると考えられていました。
しかしこれまで、染色体数の変化が実際に進化を引き起こす力になるかどうかを実験室レベルで確認することは困難であり、直接的な証拠を欠いている状態にありました。
そこで今回、中国科学院の研究者たちは、遺伝子がほぼ同じでありながら染色体数だけが違うマウスを作り、染色体数の変化だけで新たな種に分化できるか(生殖隔離が起こるか)を調査することにしました。
実験にあたってはまず、一倍体の胚性幹細胞(haESC)に対して、染色体の端(テロメア)と中央部(セントロメア)を遺伝編集技術(CRISPE-Cas9システム)で削り取り、2本の染色体を1本に融合させる処置を行いました。
通常の染色体はお互いが勝手に融合しないように、端部分と中央部分でガードを行っていますが、今回の実験ではガードを排除することで2本の染色体の融合を狙いました。
結果、第1染色体と第2染色体を2パターンの順で連結したもの(Chr1+2及びChr2+1)と第4染色体と第5染色体を連結したもの(Chr4+5)の、計3種類の一倍体胚性幹細胞が得られました。
次に研究者たちは、これら3種の一倍体胚性幹細胞をそれぞれ野生型の卵母細胞(未受精卵)に注入することで、赤ちゃんマウスを作ることを目指しました。
この技術では精子を用いず一倍体胚性幹細胞と未受精卵のみで受精卵を作り、メスマウスの子宮に移植することで赤ちゃんマウスを作り出すことが可能です。
(※一倍体胚性幹細胞と未受精卵をあわせて受精卵にするにあたり3つのインプリンティング遺伝子が排除されています)
しかし染色体数を変更した影響は大きく、第1染色体と第2染色体を融合は有害な結果をもたらしました。
Chr2+1マウスは全く成長せず、Chr1+2では逆に異常な速度で成長したものの子孫が残せない不妊となり、さらに精神的に不安を感じやすくなってしまった。
ただ第4染色体と第5染色体を融合させたケース(Chr4+5)では比較的健康であり、野生型のマウスとの間で子孫を残すことが可能であることが判明します。
ただ野生型と掛け合わせてうまれてきた子マウスたちは、染色体数の不一致による障害で、体のサイズが小さくなる傾向にありました。
研究者たちによれば、染色体数の不一致がある場合、細胞分裂時の染色体のふりわけが混乱してしまうため、細胞数の増加に支障がでた可能性がある、とのこと。
(※他にも精子生産にかかわる遺伝子の働きも低下していました)
この結果は、遺伝子がほぼ同じマウスのものでも、染色体数の違いだけで、交配が困難になっていることを示します。