人間には155個の「ゼロから作られた」遺伝子が含まれると判明!
新しい遺伝子は通常、DNAの複製過程のエラーから発生し、元々の遺伝子の機能が追加されたり失われたりすることで出現します。
そしてこのエラーが生命の生存に有利なものであれば、次世代に受け継がれ、それが積み重なることで進化が起こります。
一方、私たち人間のDNAに意味のある遺伝子が記録されている領域は全体の1.5%に過ぎず、残りの領域は長い間「ジャンクDNA」と呼ばれてきました。
そのため変異がどの領域にも均等に起こるならば、通常の遺伝子に変異が1回起こる間に、ジャンクDNAの領域では66回以上もの変異が発生する計算になります。
では、意味をなさないジャンクDNAに起きた変異が、生物にとって意味のある遺伝子に生まれ変わらせることもあり得るのでしょうか?
謎を解明するため研究者たちは、人間と99種類の脊椎動物のDNAを比較し、人間のDNAのなかで「ジャンク」から「遺伝子」に生まれ変わった新生遺伝子があるかを調査することにしました。
結果、155個の小さな遺伝子がジャンクDNA領域から出現していたことが判明します。
研究者たちは、これらのジャンクDNA遺伝子領域から発生した新生遺伝子は、既存の遺伝子の改変とは異なる「ゼロ」から(自然発生的に)出現したように思われる、と述べています。
また発見された155個の遺伝子が生命進化のどの段階で出現したかを調べたところ、哺乳類の起源に遡る非常に古いものから、人間とチンパンジーが分岐した700万年前以降という比較的新しい時期のもの(2遺伝子を確認)までさまざまであることが判明しました。
(※つまり人間だけが持っているジャンクDNAから新生した遺伝子は700万年の間に2個出現していたことになります)
この結果は、ジャンクDNA領域からの新生遺伝子の自然発生は、太古の昔から現在に至るまで常に起きており、生命進化の隠された原動力になっていた可能性を示します。
脈々と古代より受け継がれた遺伝子と異なり、新しい遺伝子は不要な場合、発生してもすぐ消えてしまう可能性があります。
しかし数百万年前という比較的新しい時代に出現した遺伝子が現在の人類に広く定着しているということは、その新生遺伝子が体にとって不可欠になった可能性が高いと、研究者たちは述べています。
しかしそうなると気になるのが、自然発生した遺伝子が現在の私たちの体で何をしているかです。
そこで研究者たちは、人間の培養細胞の遺伝子から、発見された155個の遺伝子を1つずつ切り取って、細胞の増殖速度に変化が起こるかどうかを確かめました。
もしジャンクDNAから出現した遺伝子たちが細胞の中で何らかの役割を持っていた場合、削除によって細胞の様子に違いがうまれるかもしれないからです。
結果、155個中44個の遺伝子が、培養細胞の増殖に何らかの影響を与えることが判明します。
次に研究者たちは155個の遺伝子が人間の病気にかかわるかどうかを調べました。
すると、そのうちの3つが筋ジストロフィー、網膜色素変性症、アラザミ症候群などと関係(1塩基多型)があることが判明します。
これらの結果は、ジャンクDNAから出現した遺伝子が現在の人間の細胞の中でも、何らかの役割を果たしており、病気にも関連し得る可能性を示します。
現在、ジャンクDNA領域から新しい遺伝子がどのようにして自然発生するかのメカニズムは解明されていませんが、調査方法が洗練されることで、解明に近づけるかもしれません。
最後に研究者たちは「ヒトゲノムにはまだ多くの解明すべき機能が隠されている」と述べました。