イルカの多彩な採餌戦略が明らかに
NMMFの海洋生物学者であるサム・リッジウェイ(Sam Ridgway)氏は今回の研究にあたり、GoProカメラを使って映像と音声を同時に記録すれば、イルカの採餌行動についてより詳しく理解できるのではないかと考えました。
そこでリッジウェイ氏と同僚は、十分に調教された6頭のイルカにGoProカメラを装着し、それぞれに異なる場所で遊泳や狩りの様子を記録することに。
そのうち「S」と「K」と称された2頭は、調教師の船でカリフォルニア州サンディエゴ湾に連れ出され、そこで50分間の自由な遊泳時間を与えられました。
最終的にSは69匹、Kは40匹の魚を捕食し、その中にはスズキやワカサギ、オヒョウ、ヨウジウオなど、水中や水面を遊泳するタイプと海底や海藻に隠れるタイプの魚が含まれています。
特に後者を狙う場合、イルカはギューギューと鳴き声を上げながら海底に隠れた獲物を沈殿物ごと丸呑みし、あとで沈殿物や海藻を水中に吐き戻していました。
こちらがそのPOV映像です。
また、イルカ「B」と「T」は6 × 12メートルの海水プールに入れて、その中に生き餌業者から仕入れたサバやイワシを落とし、狩りができるようにしました。
Bは1980年代にメキシコ湾で捕獲された個体であり、生き餌の狩りにも慣れた様子でしたが、Tの方は2013年に赤ちゃんの状態で海岸に取り残されていたのを救助された個体です。
それ以来、人工の飼育環境で育てられたため、生き餌にも接したことがなく、最初は戸惑っているようでした。
しかし、Bが嬉々として獲物を捕らえる様を目の当たりにして、すぐに生き餌の狩りに適用したとのことです。
ここで興味深い発見は、イルカが口を開いて獲物を吸い込む能力を有していたことでした。
イルカは主にサバやイワシのように群れをなす小型魚を見つけると、口を開けたまま群れに突進して水ごと飲み込む「ラムフィーディング(ram feeding)」を行うことが知られています。
しかしここでは、突進を利用せずその場で水ごと吸引する、いわゆる「サクションフィーディング(suction feeding)」を行っていたのです。
特に、水面近くで狩りをするときはこの吸い込み方式をよく採用していました。
最後に「Y」と「Z」と称されたイルカには、広い外洋を自由に泳がせながら、遊泳や狩りの様子を記録しました。
この2頭は獲物を捕らえるたびに”勝利の雄叫び(squealing in victory)”のような鳴き声をよく発したそうですが、注目すべき点は、Zが8匹のウミヘビを次々と捕食していたことです。
実は、イルカがウミヘビを食べる事例はこれまで確認されておらず、非常に珍しい獲物の選択だという。
これについて、リッジウェイ氏は「おそらく、このイルカは野生の群れと一緒に狩りをした経験がないたため、野生のイルカが普段何を食べて何を食べないかを知らず、ウミヘビのような獲物に手を出したのでしょう」と述べています。
しかし幸いにも、ウミヘビを食べたZに病気や体調の異変はあらわれなかったとのことです。