日本初となる「トリュフの人工発生」が成功するまで
トリュフとは、セイヨウショウロ科セイヨウショウロ属に属するキノコの一種です。
イタリア、フランス、スペインが主な産地として有名で、香りづけとして西洋料理に重宝されています。
他方で、産地が限られていたり、収穫期間が1年のうち数カ月しかなかったり、人工栽培が難しいために希少性が高く、価格も相当なものです。
(キロ当たり数万円単位で取引され、高ければ数十万円もするという)
では、なぜトリュフの人工栽培は難しいのでしょうか?
トリュフは生きた樹木の根に共生して増殖する「菌根菌」に属しています。
人工的にトリュフの子実体を発生させるには、樹木との水分やミネラルのやり取り、土壌の環境といった共生関係のメカニズムを解明し、それを完璧に再現する必要があるのです。
ただし、人工栽培がまったく不可能なわけではありません。
海外ではすでに、樹木の根にトリュフ菌を共生させた苗木を植栽することでトリュフの人工発生が行われています。
また、トリュフは地中10〜30センチ以上に埋まっているので、野生のトリュフを収穫するのも同様に困難をきわめます。
地上からの視覚は頼りにならないため、トリュフの香りを嗅ぎ分ける嗅覚が必要です。
そこでトリュフ探しには伝統的に「メスの豚」が用いられてきました。
なぜメスかというと、トリュフの匂いが交尾時にオスの分泌する性フェロモンと似ているからだそうです。
しかし現在は、豚が人間にあまり従順でないため、訓練した犬を使うようになっています。
さて、近年の日本でも西洋の食文化の影響を受けて、トリュフを楽しむ機会が増えてきました。
国内に流通するトリュフはすべて海外から輸入されたものであり、欧州産はキログラム当たり約8万円で輸入されているといいます。
日本にも20種以上のトリュフが自生していますが、その中で食用として期待できるものはわずかで、人工栽培技術も確立されていません。
そこで研究チームは、2015年から国産トリュフの栽培化を目指す研究プロジェクトを始動。
国内のトリュフの自然発生地で調査を進め、生育に適した樹種や土壌環境をつぶさに解明し、それらの条件を再現する試みに取り組んできました。
そして、食材として有望な国産の白トリュフである「ホンセイヨウショウロ」を対象に実験を開始。
具体的には、コナラ苗木にホンセイヨウショウロ菌を人工的に共生させて、国内各地の4つの試験場に植えて監視しました。
その結果、2022年11月に茨城県の試験場にて8個の、京都府内にある試験場にて14個のトリュフ(子実体)の発生が確認されたのです。
子実体の形態や遺伝情報を分析から、紛れもないホンセイヨウショウロであることが確かめられています。
この結果について、研究チームは「ホンセイヨウショウロ菌が樹木の根に完全に定着し、土壌中で増殖して子実体を形成したものと考えられる」と話しています。
加えて、人工発生したホンセイヨウショウロはヨーロッパ産の白トリュフと同様に独特の風味を有しており、高級食材として今後に期待できるとのことです。
今回の人工栽培技術が確立されれば、国産トリュフが新たな季節の食材として全国に広く提供でき、また、風味を活かした加工品の開発や海外への輸出など大きな市場を生むことが考えられます。
手の届かなかった高級食材が私たちの食卓に並ぶ日は近いかもしれません。