自分に合った最高のドラムスティックを作っていた!
チームは丸2年間、ヨーク岬半島にあるクティニ・パヤム国立公園(CYPAL)を歩き回り、ヤシオウムの鳴き声やドラム演奏に注意深く耳を傾けて、辛抱強く追跡調査をつづけました。
その間に、ヤシオウムの捨てたドラムスティックを合計256個(木の棒227本、種子のさや29個)集めることに成功しています。
(実はヤシオウムは演奏が終わると、ロックミュージシャンがライブの最後に楽器を叩きつけるように、ドラムスティックを地面に投げつけるのだそう)
そして13羽が捨てた楽器を比較したところ、ドラムスティックの好みの形や長さはヤシオウムごとに大きく異なることが判明したのです。
観察の結果、あるオスは長い木の棒を好み、また別のオスは短くて太い木の棒を好み、それから木の棒ではなく丸い種子のさやを一貫して愛用するオスもいました。
ヘインソーン氏らを驚かせたのは、それぞれの鳥が個別に「どんな形のドラムスティックが最高なのか」確固としたヴィジョンを持っていることでした。
彼らは身近にある入手可能な素材を優先させるのではなく、1羽ごとに強いこだわりを示しており、好みの形がなければ、クチバシや足先を駆使して木の幹を切り取り、一からドラムスティックを作っていたのです。
ヘインソーン氏は「彼らが道具を自分たちの望む形に削り落としていく様子は、まるで木工彫刻の職人が仕事をしているのを見ているようでした」と話します。
加えて、メスたちはオスが使う楽器の種類やその製作プロセスにも興味を示していました。
メスはスティック作りからドラム演奏まで一挙手一投足を見守り、自分のパートナーを慎重に選定していたという。
恋の駆け引きはスティック作りから始まっていたようです。
それからオスたちは、お互いの楽器デザインを真似することはないものの、自分が習得したスティック作りの技術を息子たちに教えていたといいます。
父オウムは「それじゃいかん、メスを落とせるのはこの形だ!」と息子に秘伝のワザを伝授しているのかもしれません。
ヤシオウムの現状はかなり危機的
一方で、ヤシオウムの個体数は生息地の破壊や繁殖率の低さから年々減少の一途を辿っており、野生下で生き残っているのはすでに2000羽に満たないと考えられています。
これを受けてヨーク岬半島では2021年後半に、ヤシオウムの危機レベルを「脆弱」から「絶滅危惧」へと格上げしました。
彼らのロック魂を存続させるためにも、積極的な保護活動が必要となるでしょう。
ちなみに飼育下だと、こんなノリノリなヤシオウムも撮影されているようです。