微小重力下でロウソクに火をつけると?
中国宇宙ステーションは、子供たちの宇宙や科学への好奇心を育成する目的で、宇宙飛行士が船内での科学実験をライブ配信で披露しています。
この科学教室はこれまでに3度開催されており、北京、香港、マカオを含む中国全土の5カ所と生中継し、数千人の子供や学生たちが実験の様子を見守ります。
例えば、2021年に行われた前回の実験では、微小重力下で水を入れたカップの中にピンポン玉を落とすと、地球とは違ってピンポン玉が水面に浮かび上がってこないことを実演しました。
これは船内の重力が微小なため、重力と反対向きに物体に働く「浮力」が消えてしまうためです。
そして4度目となる今回の科学教室は9月21日に開催されました。
実験を行ったのは、中国宇宙ステーションにドッキングしている有人宇宙船「神舟16号」のクルーであるグイ・ハイチャオ(Gui Haichao)氏とズー・ヤンズー(Zhu Yangzhu)氏です。
両氏は「微小重力下でロウソクに火をつけると何が起きるか?」を生中継で実演しました。
地球上であれば、ロウソクの火は原則として上方向に向けて立ち上ります。
これは暖められた空気の方が軽いために発生する上昇気流が原因です。
火によって暖められた空気は、分子が熱エネルギーによって高い運動量を持つため膨張します。すると気体の密度が下がるため、周囲の空気より同じ体積辺りの重さが減るわけです。
このように、温度差によって生じる水(液体)や空気(気体)などの流体の移動現象を「対流」といいます。
炎の周りの気体は当然、周囲より熱せられて軽くなるため重力に逆らう上昇気流が生じ、炎は上方向へ細長く立ち昇っていくのです。
しかし宇宙ではこうした対流の作用が地球上と同じように働きません。
では宇宙でロウソクに火をつけるとどうなるのでしょうか?
中国宇宙ステーションでの実験した動画を見ると、ロウソクの火は縦長ではなく、ほぼ球状になっています。
理由はとてもシンプルで、微小重力下では温度が高い気体と低い気体の間に重さの違いが発生しません。
したがって、地上のように空気を暖めても気体の流れが生じず、温められた空気はその場に留まるので炎もマッシュルームのように丸まってしまったのです。
船内で火を使っても大丈夫?
一方で、宇宙船内における火を使った科学実験は非常に危険な行為でもあります。
宇宙船には高度で繊細な電子機器を搭載しており、もしそれらが火災や煙で故障すれば、飛行を維持できなくなったり、クルーの生命を危険に陥れかねません。
実際、1997年2月23日にはロシアの宇宙ステーション「ミール」の船内で火災が発生し、大きな問題となりました。
この事故は船内に搭載されていた「酸素供給システム(熱することで化学的に酸素を発生させる装置)」の故障が原因であり、火災は小規模なものですぐに消火されたものの、黒煙が船内に充満したといいます。
これ以来、国際宇宙ステーション(ISS)は船内における火の使用に厳しいルールを定めており、火を使った実験は「燃焼統合ラック(CIR)」と呼ばれる専用の設備内でのみ可能となりました。
しかし今回、中国宇宙ステーションはステーション内で実際にマッチを擦って火を起こし、ロウソクに火を付けるというデモンストレーションを行っています。
これには驚いた人も多いかもしれません。これは一般向けの科学実験動画であると同時に、中国宇宙ステーションの火災鎮火システムに対する強い自信を示す動画でもあるようです。
いずれにせよクルーたちが子供たちとの交流を通して、非常に珍しい宇宙の不思議や科学の面白さを伝えてくれたことに変わりはありません。
ロウソク実験の様子はこちら。