自動運転車に「ひかれる」ことを目指すゲーム
木原氏とコッペン氏によって開発されたユニークなゲームが、イギリス西部の都市ブリストルの街頭に設置されました。
このゲームの挑戦者には、「横断歩道を模した直線コースを渡りきる」というシンプルな目的が与えられます。
ただし、横断歩道全体はAI搭載カメラによって監視されており、その映像は目の前の巨大なスクリーンに映し出されています。
そしてそのカメラに捕捉された挑戦者は、AIによって「歩行者」かどうか判断され、そのレベルがパーセンテージで表示されます。
この数値が一定以上になった瞬間、挑戦者の負けが決まります。
そのため彼らは、AIに「歩行者」だと認識されないよう工夫しながら、横断歩道を渡りきる必要があるのです。
「だるまさんがころんだ」のAIバージョンと言えるかもしれませんね。
実際、挑戦者たちは、「ダッシュする」「服や自転車で体を隠す」「段ボールを被る」「三角コーンを被る」「二人一組で奇妙な歩き方をする」などして、AIの認識から外れようとしました。
そしてAIの目をかいくぐって勝利したプレイヤーは、今のゲームプレイ映像を使ってAIをトレーニングするか、データを即時消去するか選択できます。
ちなみに、このゲームには物体検出アルゴリズムの1つである「SSD(Single Shot MultiBox Detector)」が使用されています。
SSDには大量の画像データを高速処理できるという特徴があり、自動運転システムに不可欠なリアルタイム処理が可能です。
ここまでくると明らかなように、この斬新なゲームは、自動運転システムを模倣したものとなっています。
つまり挑戦者たちは、「自分から自動運転車にひかれよう」と工夫していることになりますね。
そしてこのゲームは、自動運転車の性能向上に役立つ可能性があります。
実際、自動運転車はどんな状況だったとしても、横断歩道上の歩行者を検出すべきです。
たとえ、歩行者が大きな物を運んでいたり、車いすに乗っていたり、子供がふざけて遊んでいたりしても、そうすべきなのです。
そのためには様々なケースでAIをトレーニングしていく必要がありますが、多くの挑戦者が参加するこのゲーム自体がAIのトレーニングに役立ちます。
またこのゲームは、プレイヤーとして遊ぶ参加者たちに対しても、ある種の教育を施します。
まず遊ぶ中で、AI搭載のカメラが完璧でないことや、どんな状況が交通事故のリスクを高めるかを体感できます。
さらに、ゲームに勝利した人は、「安全なシステムを構築するために協力する」ことと、「データを消去して自分を目立たせない」ことを天秤にかける必要があり、この判断が参加者たちの思考を刺激するものとなるでしょう。
木原氏とコッペン氏が作った一見楽しいゲームは、実は、自動運転システムの安全性に一石を投じるものであり、現在のAIをトレーニングするのに役立つかもしれなせん。
この参加型ゲームは、2023年7月3日から7日までブリストルで展示されました。
そして木原氏らは、このゲームをムンバイや東京などの混雑した場所にも設置したいと考えています。
AIによる監視を回避してゴールを目指すゲーム型の野外インスタレーションを @studioplayfool と作りました!
🆕”How (not) to get hit by a self-driving car”, a street-based game that challenges visitors to avoid being detected by an AI. pic.twitter.com/cFCKQixYxL
— tomo kihara (@tomokihara) July 25, 2023