自分の人生を英雄の旅に置き換える
英雄の旅の要素が人生に多ければ多いほど幸せになる
私たちの脳は、物語を通じて世界を理解し、自己のアイデンティティを形成するように進化してきました。
これは、何千年も前からホモ・サピエンスが火を囲んで挑戦や勝利の物語を語ってきた歴史に深く根ざしています。
これらの物語は、単なるエンターテインメント以上のものであり、私たちの脳が情報を整理し、経験を理解する手段として機能しています。
以前に行われた研究では、20代前半までに、ほとんどの人は自分たちがどのように今の自分になったのか、そして将来どこへ向かうのかを説明するなんらかの「物語」を構築していることが示されました。
研究者たちは、人間の脳が物語を受け入れやすく、物語に強く反応するように「配線されている」と指摘しています。
つまり、物語は情報を整理するだけでなく、自己のアイデンティティを形成し、経験を一貫したものにする重要な役割を担っているのです。
あるいは、物語は私たちが自分自身と周囲の世界を理解するための基本的なツールだとも言えるでしょう。
そこで今回研究者たちは、人々の自己認識に使われている物語と英雄の物語を比較してみることにしました。
ただキャンベルが発見した17段階やそれを修正したヴォグラーの12段階は、現実の人々にそのまま当てはめるには複雑すぎます。
そこで研究者たちはそれらを7要素「①主人公、②状況変化、③探求、④仲間、⑤挑戦、⑥個人の変化、⑦結果としての遺産」に圧縮しました。
次に研究者たちは、人々の人生の物語にどれほど「英雄の旅」が反映されているかを調べるために、「英雄の旅スケール (HJS)」という21項目からなるテストを開発しました。
このテストは、個々の人生物語が古典的な英雄の旅の要素とどれだけ一致しているかを測るためのものです。
そして1200人以上の人々から個々の人生物語を集め、この英雄の旅スケールを用いてそれらを分析しました。
結果、興味深い事実が明らかになりました。
人生の物語に英雄の旅の要素が多く含まれている人ほど、人生に意味を見出し、自分が良い人生を送っていると感じる傾向が高いことが分かりました。
また、このような人々はうつ病の症状が低いとも報告されています。
つまり、自己認識に使われる物語の中に「英雄の旅」の要素が多いほど、人々は自分の人生に対して満足度が高いと感じているのです。
さらに、英雄の旅の要素が多い人々は、自分の人生で起こったさまざまな出来事を、自分にとって意味深いものとして組み立てる能力に長けていることも示唆されています。
そこで研究者たちは、人々が自分の人生を新しい視点から見ることを助けるために、「修正介入法」という新しい手法を開発しました。
人生の記憶を英雄の7要素に置き換えて繋げる
この方法の目的は、人々が自分の人生を英雄の物語として再解釈することで、人生に対する満足度を向上させることです。
この「修正介入法」では、被験者に対して、自分の人生に関する特定の質問がされます。
たとえば、「あなたが現在の自分になるまでの旅の切欠となった、経験がありましたか?」というような質問です。
この質問によって、被験者は自分の人生での重要な出来事や変化点を振り返ります。
そしてこの質問の答えは「今日の私になるまでの私の旅は、…の結果として始まりました」といった形で、いかにも物語らしい形で再変換されます。
ここでのポイントは、自分の人生を物語のように捉え直し、それを英雄の旅の観点から再解釈することです。
英雄の物語の視点を採用することは、人生の障害物や困難な状況を異なる角度から見るのに役立ちます。
例えば最近、人生で非常に厳しい時期(失業や健康問題)を経験したとしましょう。
この研究で開発された「修正介入法」は、こうした困難な経験に対して、ただ単に不幸な出来事として焦点を当てるのではなく、それらを自分の人生物語の一部として受け入れるよう促します。
さらに、これらの困難な経験は、あなたの人生における大きな飛躍や成長への前段階として捉えることを提案します。
1,700人以上の人々を対象に行われた6件の研究を通じて、研究者たちは「修正介入法」という新しい手法が人々の人生観に大きな影響を与えることを発見しました。
この方法は、人々が自分の人生を、映画や本で見られる「英雄の旅」のような物語として再解釈するのを助けます。
この再解釈により、人々は自分の人生がより意味深く、価値があるものと感じるようになったと報告されています。
具体的には、この介入を受けた参加者たちは、自分の幸福度が以前よりも高くなったと感じています。
また、仕事や個人生活など、日常の困難や課題に直面したとき、以前よりも効果的にそれらを乗り越えることができるようになったとも伝えています。
さらに、彼らは自分の人生の中で起こる困難を、ネガティブなものとしてではなく、物語の中の挑戦として捉え、それに対してより創造的で前向きな対処法を見つけることができるようになりました。
さらに驚くべき変化もありました。
修正介入法に従って自分の物語を再話した後、人々はコンピューター画面上の一見ランダムな文字列のパターンを認識する可能性が高くなりました。
この結果は、自分の人生を英雄の旅として再解釈する過程で、脳の認知機能に何らかの変化が起きていることを示しています。
「人生は物語であり、私たちはその物語の作者です」
この言葉のように、あなたの人生が壮大な英雄の旅であると考えてみてください。
私たち一人一人は、自分自身の物語の中で真のヒーローになる力を持っています。
たとえ世界全体を救うことはできなくても、自分自身の人生を変えることは可能です。
英雄的な人生を歩むための一歩を踏み出すことは、決して難しいことではありません。
ジョセフ・キャンベルが言ったように「英雄の旅は、自分自身の中心、自分自身の心の中にある」のです。
ドラゴンを倒すことだけが、栄光ではありません。
自分自身の人生の物語の中で、ヒーローとして輝き、自分だけの伝説を紡ぎだしましょう。