デンマーク国民全員のデータを取り入れたAIが死亡時期を予測する
ある人が「人生でどんな出来事を経験するか」「どんな生き方をするか」「何歳まで生きるか」といったことを知ることは可能なのでしょうか。
一部の人々は、「運命」という考え方を元に、「それができる」と主張しています。
一方、多くの人はそれらの主張を退け、「自分の将来を知ることなどできない」と述べます。
では、何か超自然的なものに頼るのではなく、膨大なデータでトレーニングした最新のAIを用いるならどうでしょうか。
理論上は「どんな人々が、どのように生きるか」といった傾向を見つけ出し、それを元に科学的に人の将来を予測することはある程度可能だと考えられます。
リーマン氏ら研究チームは今回の論文で、それを実際に行ったと報告しています。
彼らは、「life2vec」と呼ばれるモデルを開発し、「運命計算機」とも言える機能を持たせることに成功したのです。
このlife2vecに学習させたのは、2008~2016年までのデンマーク人全員分(約600万人)のデータです。
デンマーク統計局(Statistics Denmark)、全国患者登録簿(National Patient Registry)、労働市場データ(labor market data)などから得た、個人の誕生日、住居、教育、労働時間、収入、職種、社会保障、健康状態、病院の受診記録などの様々な種類のデータを用いました。
この膨大なデータでトレーニングされたlife2vecは、最終的に生涯年収や早期死亡に関連する要素や傾向を導きだすことに成功したのだといいます。
例えば、早期死亡に繋がる要因には、「男性であること」「メンタルヘルスに問題を抱えていること」などが挙げられており、長寿に関連するものとしては、「高い収入」「指導的な役割に就くこと」などがあるようです。
そしてこのAIは、ChatGPTなどのチャットボットのように、ユーザーの簡単な質問に文章で答えることができます。
例えば、ある人の情報を入力して、「この人は4年以内に死にますか?」と尋ねると答えが返ってきます。
実際研究チームが、2008~2016年のデータセットで訓練されたlife2vecに「2020年までに誰が死亡するか」と尋ね、78%の精度で予測できました。
これは統計的な予測のため当然例外は存在しますが、AIに自分や他の人の死期を尋ね、得られた答えが8割近く正しいとなると、それはもう「運命を知ること」に近い感覚があります。
またこのシステムは人々の余命だけでなく、生涯年収を予測することもできるといいます。こうした情報が予測できるなら保険や資産運用など、様々な分野で活用できる可能性があります。
デンマーク国民全員の個人情報を吸収したlife2vecは、「運命計算機」とも言える怪物へと変貌してしまったのです。
しかしながら研究チームによると、プライバシー保護の観点から、「一般の人々や企業がlife2vecを用いることはできない」ようです。
彼らは一部の結果については社会で活用したいと考えているようですが、そのためにはプライバシーを保護しつつ利用するための方法を検討する必要があります。
またこのモデルが最終的に一般公開できるようになったとしても、デンマークのプライバシー法によると、保険の契約や雇用の決定にlife2vecを使うことは違法となるようです。
これまでにもAI技術は、著作権やプライバシーに関する課題を生み出してきましたが、今後も同様のことが生じていくのでしょう。
研究チームは、この研究の次のステップとして、life2vecにテキストや画像、社会的つながりなど、他の種類の情報を組み込む予定です。
更に多くのデータを吸収していくlife2vecは、いったいどんな存在になるのでしょうか。