類人猿に普遍的に見られた「ちょっかい」
研究チームは今回、米サンディエゴと独ライプツィヒの動物園で、チンパンジー17頭、オランウータン4頭、ボノボ9頭、ゴリラ4頭を対象に、ヒトと同じようなちょっかい行動が普遍的に見られるかどうかを調査しました。
そして延べ75時間の撮影の結果、142例のちょっかい行動が観察され、4種の大型類人猿のすべてで確認できています。
しかし、ちょっかいの具体的なやり方には、突っつきやくすぐり、パシっとはたいて逃げ去るなどの軽いものから、物を差し出して相手が取ろうとすると引っ込める、相手の顔をジッと覗き込むといった挑発的なもの、それから髪の毛を鷲づかみにしたり、強めに体当たりするなどのハードなものまで幅広くありました。
研究者の分析では、全部で18種類のちょっかいが確認できたとのことです。
こちらは子供のチンパンジーが大人の背中を叩いて、ダッシュで逃げるというちょっかい。
この子は大人が無反応だと何度も何度もちょっかいを出していました。人間の子でもまったく同じ行動が見られますよね。
ちょっかいは往々にしてコロニーがリラックスしているときに起こっていました。
また大人も仲間に対してちょっかいを出すことがありましたが、ほとんどのちょっかいは3〜5歳の子供が大人に対して仕掛けるものでした。
最も典型的なちょっかいは大人も子供も突っつく、はたくなどの軽いものでしたが、明らかな違いでいうと、大人は力加減をして、優しくちょっかいを出すのに対し、子供は加減を知らず、かなり強めにちょっかいを出していました。
例えば、こちらの「デニー(Denny)」という子ゴリラは走り側に母親を強めに小突いています。
それからちょっかいの5分の1以上は、デニーのように相手に気づかれていない状態から突発的に行うサプライズの要素を取り入れていました。
加えて、ちょっかいに相手が反応しなかった場合、一度で止めることはほとんどなく、84%のケースがちょっかいをし直したり、さらにエスカレートさせています。
しかしどんなにちょっかいをかけられても大人の多くは仕返しをする傾向が低く、ほとんど常に一方向的なやりとりでした。
大人たちは過度に反応すると悪ガキが調子づくので、「やれやれ… 」くらいに思ってやり過ごしているのかもしれません。
こちらはオランウータンの「アイシャ(Aisha)」がロープで父親の頭をペチペチはたく様子です。
父親の方は「ワレ関せず」という感じでだんまりを決め込んでいます。
なぜちょっかいを出すのか?
ヒトにおけるちょっかい行動は、言葉を発する以前の生後8カ月頃から徐々に始まるといわれています。
ちょっかい行動は主にユーモアの発達と関連して議論されますが、それよりも研究者らは「他者との社会的相互作用を学ぶのに役立つのではないか」と考えています。
例えば、子供が大人に対してちょっかいをかける際、「この人は突っつくだけで怒った」とか「この人はしつこく突っついても優しく流してくれた」というように反応を見ることで、相手ごとにどこまでやっていいのか、どういう付き合い方ができるのかを自然に学んでいる可能性があるのです。
なので、ちょっかいは言語によるコミュニケーションが未熟な子供たちが取る最善の方法なのかもしれません。
またこうしたちょっかいにはエスカレートした行動があり、相手の顔を覗き込んで挑発する、強く体当りするなどの行動が見られたといいます。
こうした行動は人間の場合、ヤンキー(不良)がよくやる行動ですが、これも相手がどの程度で怒るのか? 相手の性格や力量を測り、距離感を決めるための類人猿の子供の行動から派生しているのかもしれません。
研究主任のイザベル・ラウマー(Isabelle Laumer)氏は「4種の大型類人猿のすべてにちょっかい行動が見られたことを踏まえると、それに必要な認知能力の土台は、少なくとも人類と大型類人猿が分かれる前の最後の共通祖先がいた約1300万年前には存在していたのかもしれない」と述べています。
ちょっかいの起源は人間に始まったことではなく、かなり根深い歴史があるようです。