存在しない声が聞こえる幻聴
統合失調症の主な症状には、「話題が頻繁に変わる」「作業ミスが増える」「感情の動きが少なくなる」などの生活・社会面での障害に加え、幻聴や幻視、妄想があります。
特に「幻聴」で苦しむ人は多く、患者本人にはまるで現実に聞こえたように感じられるため、病気が原因だとなかなか気づくことができません。
では、どうして統合失調症患者では幻聴が生じるのでしょうか。
ティエン氏ら研究チームによると、患者たちの幻聴は、彼らの脳が「自分の考え」と「外から聞こえてくる声」を区別できないことによって生じているという。
そして、その原因は、「言葉を発する時に働くいくつかの機能」が関係しています。
その機能とは、「遠心性コピー(efference copy)」や「随伴発射(corollary discharge)」です。
これらは通常、人間が脳から命令を出して体を動かしたりする時に、「これらから生じる自分の体の動き」を予測するために使用されます。
例えば、私たちが腕を動かそうとする時、そのための「命令」は、腕の筋肉に送られるだけでなく、脳内にその命令のコピーが残っています。
だからこそ脳は、自分の腕が動くことを予想でき、急に視界に自分の腕が飛び込んできても驚くことがありません。
「ジャンプする」という命令を出した場合も、その命令のコピーが脳に残っているので、自分の身体が急に浮いて、視界が揺れることに驚くことはないのです。
つまり、脳の予測機能が、自分が受ける感覚を「自分の行動の結果」だと正しく認識させているのです。
これは話す時も同様です。
人は何かを話そうとする時、「脳内の考え」を信号として声帯に送り、その筋肉を動かします。
脳にはこれらを正しく予測する機能が備わっているので、いきなり自分の声帯から音が出ても驚くことはありません。
耳に入ってくる音を、「どこからともなく聞こえてきた声」ではなく、「自分が発した言葉」だと正しく認識できます。
さらに脳には、自分の声を抑制する機能も備わっています。
これは「自分が発する声だから強く反応しないでね」という信号を聴覚システムに送る機能であり、これによって自分の声を外部の声だと感じさせないようにします。
1つ側面として、この機能は、自分の声が外部の音よりもうるさく感じないようにもしています。
他人の叫び声はうるさいと感じますが、自分の叫び声をそこまでうるさく感じないのは、あらかじめ自分の脳が自分の発声を予測し聴覚を抑制しているからなのです。
このように、人間の脳には思考を声に出す過程で、「自分の発する言葉だと予測・認識させる機能」が付いています。
しかし、新しい研究では、統合失調症患者ではこれらが正しく機能していないと分かりました。