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脳を持たない動物たちの睡眠
多くの研究が睡眠の重要性を指摘しており、それは基本的に脳の休息と関連付けられています。
睡眠が脳の老廃物を押し流し、ニューロンの接続を整理していることは間違いのない事実であり、睡眠が脳機能と強い関連性を持っていることは疑う余地のない事実です。
そのため、これまでの科学では、睡眠は生物が脳の獲得と共に進化上発達させてきたシステムだと認識されてきました。
しかし、最近この考えに疑問を投げかける研究がいくつか報告されています。
それは、クラゲや海綿動物(スポンジ)、ヒドラなどの脳を持たない原始的な神経系だけの生物に睡眠と呼ぶべき無反応状態(睡眠様状態)が存在するというものです。
ワシントン大学の神経科学者ポール・ショー(Paul Shaw)氏は次のように語ります。
「初期の生命体は、環境に反応する方法を進化させるまで無反応でした。
睡眠は生命の基本状態である可能性があります。
私たちは睡眠を進化させたのではなく、覚醒を進化させたのです」
2017年のカリフォルニア工科大学の研究では、クラゲに睡眠を妨害するような不安定な水流を当て続けると活動性が低下することが報告されており、クラゲにも睡眠が必要である可能性が示されています。
クラゲにも神経システムはありますが、その中に脳のような中枢はありません。
2020年にも、九州大学で脳を持たない生物ヒドラに睡眠状態が存在することが確認されました。
ヒドラ(hydra)は刺胞動物の仲間であり、体の大きさが 1cm 弱程度の小さな動物です。この生物も神経細胞は持っているものの、中枢神経システム(脳)を持ちません。
非常にシンプルな生物であり、ちょん切っても再生しクラゲよりもずっと飼育が簡単なため、生物実験材料として長く生物学では重宝されている生き物です。
研究者の金谷氏は当時学部生で、脳を持たない生物の睡眠について研究しようとしていましたが、カリフォルニア大学のクラゲの研究に先を越されてしまったと話しています。
しかし彼はそこで諦めず、単純なヒドラでも睡眠を検証できないかと考えたのです。
とはいえ、こうした単純な生物の睡眠を定義し、それを確認することは非常に難しい研究です。
そこで金谷氏らは、睡眠中動かなくなること、睡眠中は感覚機能が低下すること、睡眠恒常性という3つの睡眠の特徴をヒドラが持つかを検証することにしました。
睡眠恒常性というのは、必要な睡眠量を奪われると後でリバウンド睡眠が生じるという性質のことです。簡単に言うと夜更かしすると朝起きられない、とか昼眠くなるような性質のことです。
研究グループは、ヒドラの行動を自動的に解析するシステムを構築し、ヒドラの行動が静止する状態があることを確認。
さらにこのとき強い光を与えることで、ヒドラを覚醒状態にできることを確認しました。
一方、弱い光では20分以上静止していたヒドラは反応が鈍くなっていました。
他にもいくつかの刺激の反応などを使って実験を行い、彼らはヒドラにも睡眠状態が存在することを確認したのです。