なぜ「独り言」を話しているのか?
この調査は2022年12月8日〜2023年2月14日までの69日間に行われ、合計で1万833回のヨーダの鳴き声が録音されました。
その中には一般的に同種の仲間とコミュニケーションを取るときに使われる鳴き声も多分に含まれています。
種類も多様で、2291回は口笛を吹くようなホイッスル音、2288回は攻撃性を示すこともある急速なクリック音、5487回は低周波音、767回は打楽器のようなパーカッションでした。
研究主任のオルガ・フィラトヴァ(Olga Filatova)氏も「最初は好奇心からヨーダの鳴き声を録音しましたが、これほど膨大で多種多様な鳴き声が録音できるとは思っていませんでした」と驚きを口にします。
またフィラトヴァ氏らが注目したのは、ヨーダが3種類の異なる「シグネチャー・ホイッスル」を使っていたことでした。
シグネチャー・ホイッスルとは、それぞれのハンドウイルカが幼い時期に学習して生涯にわたり使用する個体に特有の鳴き声パターンのことを指します。
私たち一人だけが持っている名前のようなものです。
つまり、ヨーダにならヨーダだけが発する鳴き声パターンがあるのですが、なぜか彼はそれを3つも持っていました。
フィラトヴァ氏は「もし彼が一人でいることを事前に知っていなければ、少なくとも3頭のハンドウイルカが交流をしているように見えたでしょう」と話しています。
では、なぜヨーダはひとりぼっちなのにこんなに喋りまくっていたのでしょうか?
研究者らは当初、地元のパドルボーダー(パドルを漕ぐ人々)とコミュニケーションしようとしているのではないかとも考えましたが、人々がいない夜間も変わらず鳴き声を発していたので、これは明らかにヨーダの独り言でした。
独り言を発している本当の理由はヨーダに聞いてみないとわかりませんが、研究者らは「社会的孤立がヨーダに自己対話を促した可能性がある」と指摘しています。
ハンドウイルカは私たち人間と同じように、仲間と会話をすることで社会的絆を維持する生き物です。
しかしヨーダは仲間との社会的交流が絶たれているため、自分で自分を刺激したり、慰めるために自己対話(つまりは独り言)を発していると考えられます。
私たちもひとりぼっちで孤独を感じていると、自分で自分に突っ込んでみたり、頭の中の考えを声に出してみたり、とりあえず歌を歌ってみたりと、気を紛らわしたり、ストレス発散をすることがあるでしょう。
それと同じことをヨーダはしていたのかもしれません。
またチームは他の仲間を探して呼びかけている可能性も指摘していますが、「ヨーダはすでに3年間も同じ海域で過ごしており、他に仲間がいないことは十分に理解しているだろうから、その可能性は低い」と述べています。
しかし、独り言のような自己対話ができることはイルカが非常に賢いことの証拠です。
ヨーダは今日もひとりでブツブツ独り言を呟いているのかもしれません。