火星で新たに進化する「ホモ・マルシアヌス」とは?
「地球と大きく異なる火星環境に住み続けることで、人類の見た目はわずか数世代のうちに激変する可能性がある」
これはライス大の進化生物学者スコット・ソロモン氏が2018年のTED Talksにて、「火星における進化生物学(Evolutionary Biology on Mars)」の題で発表した結論です(実際の動画は記事の最後に添付してあります)。
ソロモン氏によると、火星での生活は主に次の5つの変化を人体に引き起こすといいます。
その1:骨の弱体化
火星の重力は地球の3分の1程度であるため、人体にかかる負荷が弱まり、それに伴って骨が脆くなりやすくなります。
そのせいで火星では、ちょっと強めにぶつかるだけで骨がポキッと折れてしまう「骨粗鬆症」が増えると推測されています。
火星では食糧も十分に得られない可能性があるので、移住者は地球にいた頃に比べて細身になるかもしれません。
その2:目が悪くなる
ソロモン氏によれば、火星での生活は地球よりも薄暗く、遠くを見る機会も少なくなるため、視力が低下するといいます。
火星ではドーム型の居住施設や地下シェルターなど、狭い閉鎖空間に住む必要に迫られます。
このような環境にいると、視野は物理的に制限され、遠くを見る必要性がほとんどなくなります。
加えて、火星の大地は頻繁な砂嵐によって視界がぼやけたり遮られることがあるのです。
このような状況下では視力に頼るよりも、触覚や嗅覚など、他の感覚が研ぎ澄まされていくかもしれません。
その3:肌の色が黒くなる
これは火星の高い紫外線量に対応するために起こる変化です。
私たちの皮膚にはメラニンと呼ばれる色素が含まれており、これが紫外線から皮膚を保護する役割を担っています。
メラニンの多い人は肌の色が濃くなり、日射量の多いアフリカでは人体を守るために肌が黒くなります。
通常の生活ではドームやシェルター内にいるとしても、屋外で活動しなければならない機会も多いため、人類は火星の紫外線から肌を守るために色が黒くなると見られます。
その4:低酸素環境への適応
先ほど言ったように、火星の大気は地球とまったく異なるため、移住者たちは効率よく酸素を取り込む術を身に付けなければなりません。
これと同じ適応はチベット高原に暮らす人々において実際に確認されています。
標高4000メートル級のチベット高原では、酸素濃度が海抜0メートルの地表に比べて40%も低くなっています。
そこでチベット人は血液の流れを改善する密度の高い毛細血管を発達させたり、遺伝的に酸素の運搬能力を高める適応を示しているのです。
これと同様の適応が火星の入植者にも起こると予想されます。
その5:免疫系の低下(あるいは消失)
火星にはいまだ生命の痕跡が見つかっていません。
ということは火星環境には細菌やウイルスも(人間が持ち込まない限り)存在していないと考えられます。
そのような無菌環境で暮らしていると、細菌やウイルスから体を守る必要もなくなりますから、私たちに備わっている免疫系が弱体化し始めます。
またソロモン氏はその状態で世代交代が続いていくと、最終的には免疫系そのものが消失する可能性もあるといいます。
以上の5つの適応進化が完了してしまうと、もはや火星の移住者は地球にいる私たちと遺伝的に異なる種になっていると言えるでしょう。
そうしてソロモン氏は、火星で新たに誕生する人種を「ホモ・サピエンス」とはまったく別の「ホモ・マルシアヌス(Homo martianus)」と名づけています。
(火星【Mars】に暮らす火星人は英語で【Martian】と呼ぶことから)
ホモ・マルシアヌスは人類と比べて、見た目も身体機能も遺伝子も地球人とは全くの別物に変わっているはずです。
そしてホモ・マルシアヌスは免疫系が弱体化しているゆえに、地球人との新たな接触(遺伝的交流)は不可能となります。
細菌まみれの人体と性的接触をしようものなら、簡単に有害な病原菌に感染して、火星人は死んでしまうでしょう。
こうして地球人と火星人はそれぞれが別々の道を歩み始めていくと予想されるのです。