斬新なアイデアを生み出しやすいチームとは?
今回の研究では、アイデア創出におけるネットワークの構造とメンバーの多様性の関係が詳細に調査されました。
研究チームは617名の大学生を対象に、特定のオンライン上のネットワーク環境でアイデアを出し合う実験を実施。
参加者は20〜25人のグループに分けられ、以下の2つの課題のいずれかに取り組みました。
- 新しいノートパソコンのキャッチフレーズを考える(マーケティングスローガンの作成)
- 短いフィクション作品を書く(ストーリー創作)
実験では、各グループのネットワーク構造を以下の3つのパターンに分けました。
- 完全接続型: すべてのメンバーが互いに自由にアイデアを閲覧・共有できる
- 空間的クラスター型: 限られたメンバーとしかアイデアを共有できない
- ランダム型: ランダムに接続されたメンバーとアイデアを交換する
またメンバーの背景情報(学部や専門分野)を考慮し、以下の3つの条件を設定しました。
- 類似背景型: 同じまたは似たバックグラウンドを持つ人たち
- ランダム背景型: 適度に異なるバックグラウンドを持つ人たち(専門に極端な差は出ない)
- 異質背景型: 全く異なるバックグラウンドを持つ人たち
それぞれのグループが提出したアイデアについては、外部の専門家に評価してもらっています。
そして実験の結果、最も有用なアイデアを生み出したのは「空間的クラスター型+ランダム背景型」の組み合わせのグループでした。
一方、「完全接続型」のグループはどれもアイデアの多様性が最も低かったのです。
では、なぜこのような結果になったのでしょうか?
自由すぎる環境は創造性を妨げる?
この研究の意外な発見は「全員が自由にコミュニケーションを取れる環境では、かえってアイデアの多様性が失われる」ことです。
その理由として、全員が同じアイデアを頻繁に目にすると、独自の発想が生まれにくくなることが指摘されています。
完全に開かれたネットワーク環境では、参加者が他者のアイデアを頻繁に目にするため、新しいアイデアを考える際に既存のアイデアに影響されやすくなります。
これにより、類似したアイデアが多くなり、結果としてアイデアの多様性が低下するのです。
これは「集団同調性バイアス」と呼ばれる心理的効果によるもので、人は周囲の意見に無意識に合わせる傾向があるため、独自性が失われやすくなります。
また情報過多によりアイデアが十分に深掘りされず、表面的な議論に終わるケースも多く見られました。

アイデアが創造されやすいチーム環境
実験結果を踏まえると、創造的なアイデアが生まれやすいチーム環境は次のようにまとめられます。
「異なるバックグラウンドを持つ人たちを適度に集め、全員が相互に自由にアクセスできる環境ではなく、ネットワークに一部制限を設けること」
ネットワークに一定の制限を設けることで、参加者のうちに特定の少人数グループが形成され、その中で意見を交換するようになります。
その結果、それぞれの小グループが独立したアイデアを育てやすくなり、それぞれの小グループのアイデアを統合することで、全体としてアイデアの多様性が向上するのです。
加えて、それぞれの小グループのメンバーが適度に異なるバックグラウンドを持っていれば、多様な意見交換が交わされ、斬新なアイデアが育ちやすくなるのです。
またネットワーク制限を設けることで、少数のメンバーが特定のアイデアに集中し、それを磨き上げることもできます。
これらの結果は、企業のチーム編成や、学校のグループワーク、オンラインのブレインストーミングにも応用できる可能性があるでしょう。
つまり、斬新なアイデアを生み出しやすいチーム環境を作るには、全員が自由に発言できる環境ではなく、適度に多様なメンバーを集めて、それぞれのネットワークに一部制限を設けることです。
もし職場や仲間とのアイデア作りに難航しているなら、チームの構成を少し工夫してみると良いかもしれません。