“鉄壁の巣”が狙われる理由

シロアリはアリやハチと同様に高度な社会性をもつ昆虫で、巣の内部では女王・兵隊・働きシロアリなどの階級が明確に分かれ、互いに役割分担をしながら生活しています。
社会性昆虫の巣は温度や湿度が安定し、豊富な食料と仲間がそろう“恵まれた住処”ですが、その一方で外敵や異物を排除するための厳重な防御態勢が整っています。
兵隊シロアリは微妙な匂いや触覚の感触を頼りに仲間以外を即座に排除するため、外部の生物が巣の内部に深く入り込むことは通常困難と考えられてきました。
しかし、昆虫界には社会性昆虫の巣へ巧みに寄生・共生する例がいくつも存在します。
アリの巣では、コオロギやカブトムシがアリの運ぶ食料を盗んだり、寄生バエが産卵して幼虫を育てたりするケースが知られています。
シロアリの巣に限っても、フトヒゲブユ科(Phoridae)のハエが働きシロアリに擬態して潜り込む事例が報告されていますが、クロバエ科(Calliphoridae)が同じようにシロアリ社会へ高度に統合しているという報告は極めて珍しく、今回の研究は非常に貴重な発見となりました。
今回注目されたのはシロアリの一種「Anacanthotermes ochraceus」という種類です。
夜間や薄暮に地上へ出て植物の種子や草などを集めるため、機能的な目を持つという点が多くのシロアリと異なります。
加えて、コロニー内部では視覚だけでなく化学物質(匂い)でも仲間同士を識別するため、視覚と嗅覚を併用した強力な防衛システムを備えていると考えられてきました。
にもかかわらず、シロアリの巣に紛れ込み、しかもシロアリに世話までされるようなクロバエ幼虫の存在は、私たちの常識を覆す現象として大きな注目を集めています。