サバイバル脳が招く代償

この研究は、「見られている」という状況が私たちの無意識的な知覚を変容させうることを初めて実証的に示しました。
では、なぜこのようなことが起こるのでしょうか?
専門家たちは、人間の脳に備わった生存本能的な仕組みが関与していると見ています。
シーモア氏は「私たちが他者の視線や顔に素早く気付ける能力は、元々は捕食者や周囲の人間から身を守るために進化したハードワイヤード(生得的)な機能です。それが監視カメラに見られている状況でさらに強化されるようだ」と説明しています。
言い換えれば、防犯カメラの“目”が自分に向けられていると知った途端、脳内では無意識のうちに太古からのサバイバルモードのスイッチが入り、周囲の人間の存在や視線に対して過敏な状態(ハイパー覚醒)が引き起こされるのかもしれません。
実際、精神医学の世界でも極度の被監視感は重要な症状として知られており、シーモア氏は「統合失調症や社会不安障害では、他人に見られているという考えにとらわれるあまり、他者の視線に過敏に反応してしまう視線過敏が見られます」と指摘しています。
今回の研究結果は、監視社会に生きる私たち健常な人々の中にも、知らず知らずのうちに軽い視線過敏のような状態が広がっている可能性を示唆していると言えるでしょう。
一方で、この変化は必ずしも私たちに良い方向ばかりをもたらすとは限りません。
ウォータールー大学(カナダ)で社会的認知を研究するクララ・コロンバット氏は、「この無意識過程において約1秒もの差が生じたのは非常に大きなことです。注目すべきは、その効果が人の顔という社会的な刺激に限定され、抽象的なパターンでは見られなかった点です。ただ緊張感で反応が速くなったのではなく、他者から向けられる関心に対して選択的に脳が反応したことを示しています」と解説しています。
コロンバット氏らの最近の研究では、人の目だけでなく「自分に向けられた他者の注意」全般に対して人は敏感に反応することが示唆されています。
例えば、視線が合わなくても相手の口元がこちらを向いているだけで作業記憶(ワーキングメモリ)が低下したり、三角錐のような無生物の図形であっても尖った先端が自分の方を向いていると感じれば脳が素早く検知したりするという報告があります。
これらは『マインド・コンタクト(心的接触)』と呼べる現象です。要するに、他人の視線そのものだけでなく、自分が誰かの注意の的になっているという事実そのものが、私たちの認知に影響を及ぼすのです。
シーモア氏は「監視カメラがこれほど社会に浸透している現代では、その影響を公衆のメンタルヘルスの観点からも注意深く検討すべきだ」と強調します。
本人の自覚なく脳に負担がかかり注意力が削がれてしまう可能性や、常時軽いストレス状態に晒されることによる長期的な影響について、今後さらなる研究が求められています。
防犯や利便性のために導入された監視技術が、皮肉にも私たちの心の健康に見えない代償を強いているのだとしたら――私たちは「安全とプライバシー」のバランスについて、これまで以上に慎重に考える必要があるのかもしれません。
今回の研究は、絶え間ないビッグ・ブラザーの視線の下で生きる私たちの無意識の世界に光を当て、その重要性を教えてくれているのです。
男子校や女子校の生徒さんより共学校の生徒さんのほうが風紀はいいという話と同じようなものですね。
荒れてる学校も共学化するとあっという間に落ち着きますからね。
異性の監視の目が与えるストレスはとんでもないという。