“見られる社会”の落とし穴

いつも誰かに見張られている——そんなプレッシャーは、私たちの表向きの行動を変えることが知られています。
心理学では古くから「観衆効果」として、他人の目があると人は頑張ったり良い行いをしたりする傾向が報告されてきました。
例えば、誰かに見られていると思うだけで、寄付を多くしたり、盗みや嘘・ごみのポイ捨てを控えたりすることが多いのです。
私たちは評判を気にして行動を調整し、「見られている場面」で恥をかいたり罰を受けたりしないよう無意識に努めているわけです。
しかし、オーストラリアのシドニー工科大学(UTS)の神経科学者カイリー・シーモア氏ら研究チームは、監視の影響はそれだけに留まらないのではないかと考えました。
防犯カメラに代表される現代の監視社会は年々高度化し、プライバシーへの懸念が高まる一方で、その人間への心理的影響、とりわけ無意識レベルの影響については分かっていない点が多くあります。
人は他者の視線や顔を敏感に感じ取る特別な能力を進化させてきましたが、もし「見られている」と感じたときに私たちの脳内で自覚できない変化が起きているとしたら、それは社会にとって見過ごせない問題かもしれません。
シーモア氏は「従来の研究が明らかにしてきたのは意識的な行動の変化だけでした。
そこで私たちは、監視されている状況が人間の基本的な知覚や認知といった不随意(自動)過程に及ぼす影響を初めて直接検証しました」と述べています。