なぜ人は陰謀論に惹かれる?

陰謀論という言葉を聞いたことはあるでしょうか。
これは簡単にいうと、「世の中の大きな事件や出来事には、裏で誰かが秘密の計画や悪だくみをしている」という考え方のことです。
歴史上の暗殺事件から最近の新型コロナウイルスまで、さまざまな出来事について、「実は影の組織や政府が裏で操っているのだ」という説が繰り返し主張されてきました。
こうした陰謀論が興味深いのは、一度人が信じてしまうと、単なる噂話にとどまらず、実際の行動や社会の動きにまで影響を与えることがある点です。
例えば、新型コロナのワクチンをめぐる陰謀論では、「ワクチンには体に害がある成分が入っている」とか「ワクチンで個人情報が抜き取られる」といった話が広まりました。
こうした話を信じてしまった人は、実際にワクチン接種を拒否したり、科学者や政府の言うことに耳を貸さなくなったりするケースがあります。
また面白いことに、一つの陰謀論を信じると、他の陰謀論まで次々と信じ込んでしまう傾向も確認されています。
しかも、それらがどんなに矛盾していても関係ありません。
「ある事件は政府が仕組んだ」と信じる人は、「同じ政府が他の事件を隠している」という全く別の陰謀論まで受け入れてしまうことがあるのです。
まるで陰謀論という眼鏡を一度かけてしまうと、世界の見え方がガラッと変わってしまうような状態です。
では、そもそもなぜ人は陰謀論に惹かれ、それを信じ込んでしまうのでしょうか?
単に勉強が足りなかったり、だまされやすい性格だから、と簡単に片付けることはできません。
陰謀論を信じる人は、どんなにきちんとした証拠を示されても、なかなかその信念を手放しません。
まるで、何か特別な粘り強さや強い魅力が陰謀論そのものに隠れているかのようです。
過去の心理学の研究から、陰謀論を信じやすい人にはいくつかの共通点があると分かっています。
たとえば、科学や政府など社会の仕組みそのものへの不信感が強かったり、偶然に起きた出来事にも「何か裏があるのではないか」と疑ってかかりやすい傾向があることが報告されています。
しかし、心理学ではその「心の傾向」は指摘できても、「脳の中で具体的に何が起きているのか」まではよく分かっていませんでした。
そこで今回の研究チームは、陰謀論を信じやすい人の脳の中で、情報をどう処理しているのかを詳しく調べることにしました。
陰謀論を信じやすい人の脳では、そうでない人とは何か異なる働きが起きているのではないか。
そんな予測を立てて、科学的な方法で調べる実験に挑んだのです。