光子は物理学で「禁じられた粒子」だった可能性がある
光子は物理学で「禁じられた粒子」だった可能性がある / Credit:clip studio . 川勝康弘
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光子は物理学で「禁じられた粒子」だった可能性がある

2025.05.13 17:00:04 Tuesday

アメリカのスタンフォード大学が運営するSLAC国立加速器研究所(SLAC)で行われた研究によって、「光子の状態が2通りしかない」という従来の常識を覆し、実は無数に存在することを証明する方法が開発されました。

研究では、もし光子の自転(スピン)状態が無数にあるとしたら、現代の物理学の基礎となる標準模型では禁じられた「光のあり得ない動き」がみられるとの理論が示されています。

これまで光子は「右か左にしか回転しない、偏光が二択」という“常識”のもとで研究されてきましたが、無数の回転モードを持つとわかれば、光の振る舞いを支える根本的な法則そのものを見直し、より上位の理論へ拡張する必要が出てくるでしょう。

そして電磁気力や量子情報の基盤となる理論、さらには重力を扱う理論まで、すべてがある意味で「近似にすぎなかった」という事実を突きつけられる可能性もあります。

新たに解き放たれる無限の偏光状態は、通信や計測の技術革新をも促し、これまで想像もしなかった光の応用を切り拓く可能性を秘めています。

研究者たちは、そんな新理論を実証するためにどんな方法を思いついたのでしょうか?

結論から言えば、それは「たった1個の水素原子」を観察する非常にスマートな方法でした。

研究内容の詳細は2025年5月6日に『arXiv』にて発表されました。

Probing “Continuous Spin” QED with Rare Atomic Transitions https://doi.org/10.48550/arXiv.2505.01500

『光の二択』神話崩壊へ──連続スピン理論が迫る新たな常識

『光の二択』神話崩壊へ──連続スピン理論が迫る新たな常識
『光の二択』神話崩壊へ──連続スピン理論が迫る新たな常識 / Credit:clip studio . 川勝康弘

の小さな粒である「光子」は、進む方向に対して左右のどちらか向きにクルクルと回っているだけ、というのが今までの定説でした。

スピンは北極と南極を持つ小さなバー磁石のようなものと例えられ、光子の場合その向き(ヘリシティ)は進行方向に対して左右の2通りしか取れない——これが現在知られている光子の状態です。

しかし1939年に物理学者のユージン・ウィグナーが示唆したのは、光子が「連続スピン粒子(英語ではContinuous Spin Particle)」と呼ばれる不思議な存在かもしれない、という可能性でした。

もし本当に連続スピン粒子なら、光子は右回りと左回りだけではなく、限りなく多様な回転パターンを持つことになり、私たちの常識を大きく覆すかもしれません。

とはいえ、こんなに無限の回転モードを持つ光子がいると、計算が破綻したり、太陽のような星が異常に冷えてしまうなど、多くの矛盾が起こると長らく考えられてきました。

そのため多くの研究者は「連続スピン粒子は理論上考えられても、現実にはあり得ない」と半ば決めつけてきたのです。

ところが近年になって、スタンフォード大学SLAC国立加速器研究所のフィリップ・シュースター博士とナタリア・トロ博士らが、基本的な物理の原理(ローレンツ対称性など)を出発点にモデルを作り上げたところ、連続スピン粒子が存在しても破綻が起きない場合があるとわかってきました。

かつては不可能だと考えられていた粒子の存在が、量子論の進歩によって「ちゃんと動く理論」として進化したのです。

しかもそのモデルでは、普通の光子とほとんど見分けがつかないような動きを示す一方で、ほんの少しだけ違いが混ざる可能性もあるのです。

理論が発展してくれば、流れは必然的に実験的実証に移動します。

実際近年では「自然のどこかにこの連続スピン粒子が隠れていてもおかしくないのではないか?それなら実際に実験で確かめよう」と熱が高まってきました。

ただこれまでは、連続スピン光子が標準的な光子と決定的に区別できる方法がなく、検証の糸口すらつかめない状態が続いていました。

そこで今回の研究チームは、「めったに起こらない原子の変化」に着目し、区別するための方法を開発することにしました。

そこで注目されたのが、「わずか一つの水素原子」が特別な光を出す現象でした。

次ページ光は“右か左”だけじゃない? 無限状態が教科書を燃やす日

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