まともな求人を装った犯罪組織の求人
この研究が焦点を当てているのは、いわゆる違法な性的ビジネス──中でも、インターネット上の求人広告を通じて、女性(あるいは男性)を性的サービスに従事させる人身売買的なリクルート手法です。
問題となる業態の特徴は、一見すると合法的な職業のように見える点にあります。
「高収入」「モデル募集」「時間の自由な仕事」など、聞こえのよいキーワードが並ぶこれらの広告は、ぱっと見では好条件の正当な求人に見えます。しかしその多くが、実際には自由のない労働を強いられる搾取の入り口になっています。
このようなビジネスの多くは、法律上の手続きを取らず、雇用契約も曖昧です。
「辞めたい」と思っても辞められなかったり、暴力や監視、借金などの形で逃げられない状態に置かれる人も少なくありません。
こうした業態は、合法な性風俗業(法的な届出がされ、就労が本人の自由意思に基づくもの)とは明確に異なります。
合法業の場合、仕事内容や報酬が明確に提示され、従業員は自由に勤務の可否を選ぶことができます。
しかし、今回の研究で問題視されているのは、表向きは「普通の求人」を装いながら、実際には人権を無視した搾取へと繋がる違法業務に取り込む組織的なネットワークです。
とくに深刻なのは、こうした違法なビジネスが、普通の求人広告の顔をして、地方都市や郊外でリクルートを行い、都市部へと被害者を“供給”しているという構図です。

この「リクルート段階」は、これまでの違法性風俗業の対策ではあまり注目されてきませんでした。
従来の対策は、性的サービスが行われている都市部での摘発や、被害者の救出といった“問題が起きた後”の対応が中心です。
しかし、そもそもどうやってその人が違法店にたどり着いたのか? どこで、どのようにしてリクルートされたのか? この部分の実態は、ほとんど明らかにされていなかったのです。
そこで、ペンシルベニア大学の研究チームは、「違法風俗店のキャストの供給源はどこにあるのか?」という疑問を出発点に、AI(人工知能)を使ってネット上に無数に存在する性的サービス関連の広告投稿を分析。
その中から、実際の違法店と結びついた“リクルート広告”の特徴やパターンを見抜こうとしたのです。
研究チームはまず、アメリカ国内の性的サービス関連ウェブサイトに掲載された約1,350万件の投稿を収集しました。その中には、顧客向けにサービスの提供を宣伝する広告もあれば、働き手を募集するような投稿も含まれていました。
次に研究チームは、投稿の内容をAIに分析させるため、機械学習による分類モデルを構築しました。
このモデルは、投稿に含まれる語彙や言い回し、価格帯、掲載時間帯などの特徴をもとに、それぞれの投稿が「サービス提供を顧客に案内する広告(サービス広告)」なのか、「働き手を募る意図をもつ広告(リクルート広告)」なのかを自動的に判別するよう設計されました。
さらに、各投稿に記載された電話番号やメールアドレスなどの連絡先情報をもとに、同じ連絡先が使われた複数の広告同士のつながりを追跡してみたのです。
その結果、地方都市で掲載された求人広告と、数日後に都市部で投稿された性的サービス提供広告が、同じ連絡先を共有しているケースが数多く発見されたのです。