転がりの予測はなぜ難しい?

普段何気なくサイコロを振れば、コロコロと転がってやがて止まり、ある面が上に出ます。
この「転がって静止するまでの挙動」を正確に予測するのは一見簡単そうですが、実はとても複雑な物理現象です。
特に形がいびつな物体の場合、どの向きで止まるかを調べるには従来、コンピュータ上で物理シミュレーションを何千回も繰り返し、統計を取る必要がありました。
しかしシミュレーションには計算時間がかかるうえ、パラメータの調整や接触計算の不安定性など課題も多く、複雑な形状ではなおさら困難でした。
一方で、普通の立方体のサイコロでは6つの面がすべて等確率(各1⁄6)で出ます。
しかし実は必ずしもサイコロは立方体である必要はありません。
出にくい目に価値を高く設定するなどの方法で、あえて不均一なサイコロが求められるケースもあります。
歴史的には、羊の足の関節骨(アストラガルス)をサイコロ代わりに使った例もありますが、この「くるぶしサイコロ」では各面の出やすさは均等ではなく、骨の形状によって偏りが生じました。
研究者のキーナン・クレイン氏(米カーネギーメロン大学)は「古代の人々が使った不揃いなサイコロでは、各面の出る確率は1⁄4ずつ等しいわけではなく、その特有の形状によって決まっていました。人々は経験を重ねる中で、どの面が出やすいか直感的に見抜いて賭けていたのです」と説明しています。
つまりサイコロの確率は形次第であり、逆に言えば形を工夫すれば確率を操れる可能性があります。
この点に着目したのが今回の研究です。
研究チーム(カーネギーメロン大学やNVIDIA研究所、Adobe研究所、トロント大学の共同研究)は「物理シミュレーションに頼らずに形状の情報から直接、転がりの結果(静止する向き)の確率を計算できないか」と考えました。
その目的は、デザイン段階で物体の安定性を即座に評価したり、意図した出目の確率分布を持つサイコロ形状を自動設計したりすることです。
例えばテーブル上で倒れにくい製品の設計や、ユニークなボードゲーム用サイコロの開発に役立つでしょう。
研究チームの1人であるクレイン氏はXへの投稿で「たとえば立方体ではないドラゴンの形をしたサイコロでも、公平に作れます。私たちの手法ならそれが可能なんです!」と語っており、従来は困難だった“どんな形でもサイコロ化”という野心的な目標の実現に意欲を見せています。