核に沈んだはずの貴金属が地表に出てくる

ハワイ諸島は太平洋プレート上の「ホットスポット」と呼ばれる地点に位置し、地球深部から湧き上がるマグマの柱(マントルプリューム)が地表に現れる場所だと考えられています。
そのためハワイの火山岩は、地球内部の奥深く、場合によっては核付近に由来する物質を含んでいる可能性があります。
メスリング氏らはハワイで産出した玄武岩質の溶岩サンプルを採取し、最新の分析技術を用いてその同位体組成を調べました(※同位体: 原子は同じ元素でも中性子の数が異なると質量が変わり、違う「同位体」として区別される)。
特に注目したのは、ルテニウム元素の中でも質量数100の同位体「ルテニウム100」です。
これらの同位体は地球の核とマントルとで存在比にわずかな差があることが予測されていました。
するとハワイの火山岩ではルテニウム100の割合(同位体比)がわずかに高いことが明らかになりました。
この微小なズレ(同位体比の違い)は、溶岩が地球深部の特殊な物質を取り込んだ“痕跡”であると考えられます。
実際、地球の核には地殻やマントルよりもわずかに多い割合のルテニウム100が含まれているため、核由来の物質が混ざれば溶岩中のルテニウム同位体比に影響を及ぼすはずです。
今回ハワイの試料から見つかったわずかに高いルテニウム100の信号は、その岩石が核—マントル境界付近に起源を持つことを示すものです。
さらに同じ試料ではタングステン182の同位体比にも通常のマントルでは説明できないわずかな偏り(非放射性寄りの組成)が検出されました。
タングステン自体は核に豊富ですが、182W/184W 比が核とマントルでわずかに異なります。
ルテニウムとタングステン、二つの元素の指紋がそろって示すもの──それは地球の核から漏れ出した物質がハワイのマグマに混ざっていたという結論でした。