「あの時、ああしていれば……」反事実的思考と2つの傾向
「反事実的思考」とは何でしょうか?
これは、「もしあのとき、違う選択をしていたら…」と過去の出来事に対して別の展開を想像する思考パターンのことを指します。
トラバース氏は、この思考を繰り返すなら深刻な精神的影響をもたらす可能性があると警鐘を鳴らしています。
では、反事実的思考にとらわれている人には、どのような傾向があるのでしょうか?

まず明らかな傾向として、「後悔が行動力を奪っている」ことが挙げられます。
この傾向は、反事実的思考の中でも「上向きの反事実的思考」と呼ばれるものに顕著です。
上向きの反事実的思考とは、「ああしていれば、状況がもっと良くなっていたかもしれない」と考えることです。
例えば、「もっと勉強していれば、今頃は夢の職業についていたのに」と何年も後悔し続けるケースが該当します。
当然ながら、こうした思考は現在の行動力さえも奪ってしまいます。
実際、13,000人以上を対象とした2017年のメタ分析によると、このような上向きの反事実的思考は、抑うつ症状と有意な関連性があるとわかっています。
つまり、過去の“あり得たかもしれない自分”に意識が奪われることで、今の自分を肯定できなくなっているのです。
そうなると、現実での行動エネルギーが枯渇し、文字通り「今を生きられなくなる」のです。

もうひとつの傾向は、「空想することが現実感覚をゆがめる」というもの。
反事実的思考にとらわれる人は、いわば心の中にパラレルワールドを作り出し、その「自分にとって都合の良い空想世界」を楽しむ人のようです。
しかし、2018年の研究では、そのような種類の空想の傾向が精神的な苦痛をもたらしやすいことを示しています。
反事実的思考の人は、「過去のある段階で分岐した理想的なパラレルワールド」と「現実」を比較することで、現在の人生がつまらなく、意味のないものに感じてしまうのです。
たとえば、「あの人と結婚していれば、きっと幸せな家庭が築けたはず」といった思考が続くと、今のパートナーや生活がまるで“失敗作”のように感じられるかもしれません。
では、もしこのような傾向が自分にあるとしたら、どうすれば良いでしょうか。
トラバース氏は、反事実的思考から抜け出すための方法も教えています。