「お金の使い方」に認知症のサインがあった⁈
研究の対象となったのは、2009年から2023年のあいだに収集されたイギリスの大手銀行による約14年分の金融データです。
分析では、認知機能の低下により成年後見制度(※)を利用することになった人々1万6742人と、年齢や性別、収入などの条件を一致させた対照群5万人超の金融行動が比較されました。
(※ 成年後見制度とは、認知症や知的・精神障害などによって判断能力が不十分な人を保護・支援するための制度のこと。
具体的には、本人の代わりに銀行の財産を管理したり、契約などの法律行為を行ったり、不利益な契約を取り消したりする。)
データ分析の結果、後見登録の5年前の時点ですでに、微細ながらも明確な行動の違いが現れていたのです。

たとえば、のちに認知症と診断された人々には次のような金融行動の変化が観察されました。
・旅行への支出が9.6ポイント減少
・趣味(園芸など)への支出が7.9ポイント減少
・衣類など身の回り品への支出が9.1ポイント減少
・オンラインバンキングの月間ログインが平均1回減少
一方で、以下のような行動はむしろ増加していました。
・家庭の光熱費への支出が5.1ポイント増加
・動物保護団体などへの寄付が1.1ポイント増加
・暗証番号(PIN)の再設定やカード紛失の報告が顕著に増加
これらはすべて、日々の生活のなかで当人や周囲が「気づきにくい変化」でありながら、確実に金融的な判断力や注意力の衰えを映し出していたのです。
研究者らは「外出や趣味といった社会的活動への関与が減り、自宅にこもる傾向が強まることが、認知機能低下の表れ」と解釈しています。
それにより、光熱費などが増加しやすくなったと考えられます。