タブーの裏に眠る科学を掘り起こせ

肛門を使ったセクシュアルな行為(一般的にアナルセックスと呼ばれます)は年代や性別セクシュアリティを問わず多くの人に親しまれてきました。
実際過去の調査では異性愛者では女性の36%・男性の44%がパートナーとのアナルセックス経験を持ち両性愛者や同性愛者ではさらに高率であることが報告されています。
こうした統計が示すように肛門性交(受け身側)は特定の層だけでなく幅広い人々によって行われる普遍的な行為と言えます。
なぜ男性も肛門性交で快感を感じるのか?
これまでの解剖学的な見地から、人間の腰の奥、背骨の下の方から、まるで太い充電ケーブルのような「陰部神経」というメインラインが伸びています。
ケーブルは骨盤の内側をぐるりと回り込み、お尻の柔らかな脂肪に潜り込むと細いコードに枝分かれし、肛門まわりと外陰部の皮膚・筋肉、さらにはクリトリスや亀頭までもくまなく張りめぐられます。
そんな陰部神経の太い枝の一つとして「下直腸神経」が存在しており、肛門から指先がようやく届く1〜2センチほどの浅い前壁に、小さなセンサー線をびっしり伸ばしています。
ここは感覚のホットスポットで、男性ならすぐ裏に前立腺が、女性なら腟の壁のすぐ向こうにクリトリスの内部構造(脚=クルラ)が走っているため、この内側の点を軽く押すだけで外側を直接愛撫したかのような信号が脳へ届き、内側からゾクッと震えるような快感が立ち上がりやすいのです。(※なぜ前立腺刺激が男性にとって快感なのかは3ページ目の「なぜ男性は前立腺刺激で快感を感じるのか?」の部分で解説していますので参照してください)
リズミカルな刺激が続くと、その信号は脊髄を経て骨盤底の筋肉を反射的に締めたりゆるめたりさせ、同時に脳では快感物質のドーパミンやオキシトシンがあふれ、ある強さと時間がそろった瞬間に「絶頂スイッチ」が入ってオーガズムへと達します。
ただしこの前壁センサーは非常に敏感で、潤滑が足りなかったり急に強い圧をかけたりすると、心地よさが一瞬で「痛い」「不快」という信号に反転します。十分に潤滑し、ゆっくり体を慣らせば、男女どちらにとっても体の奥からふくらむ独特の深い快感を安全に味わえる仕組みになっているのです。
しかしながら医療・性科学の分野でアナルセックスに関する研究の多くはHIVや性感染症などリスクに焦点を当てたり対象も異性愛の女性や男性同士のセックス(MSM)に偏っていたりしました。
性的快感や満足オーガズムといったポジティブな側面や直腸内のどの場所が気持ち良いのかといった問いは十分に検討されてこなかったのです。
こうした背景から米カリフォルニア大学サンフランシスコ校(調査開始当時)などの研究チームは肛門性交時の快感やオーガズムに関する初の大規模調査を実施しました。
この研究の目的は大きく3つあり
(1)どのような男女がどの程度アナルセックスを行っているか
(2)肛門・直腸内のどの部位で快感を得ているか
(3)肛門刺激だけでオーガズムに達することがあるのか
などを明らかにすることでした。
著者らは「肛門の快感の仕組み」や「肛門性交とオーガズムの関係」を解明し医療者が患者に適切なアドバイスを行えるようにする一助とすることを目指したのです。