SNS時代でも美人は本当に得するのか?

「セクシーさは売れる(Sex sells)」という言葉を聞いたことがあるでしょうか?
これは、マーケティング(商品の売り込み)の世界で古くから使われている言葉です。
簡単に言うと、魅力的な外見を持つ人が宣伝すると、人々の関心を強く引きつけ、商品を買いたいと思わせる効果がある、という考え方です。
実際にテレビのCMや広告を見てみると、綺麗な人やかっこいい人が出ていることがよくあります。
また、過去の研究でも、魅力的な外見は人々の興味を引きつけ、商品を売る効果があると確認されています。
しかし、この常識はSNS時代でも通じるのでしょうか?
SNS上では企業広告よりもインフルエンサーと呼ばれる個人発信者の影響力が増し、特にフィットネス分野のインフルエンサー(いわゆる「フィットネス系インフルエンサー」)は、自身の鍛え上げた肉体そのものがブランドであり、資格の証明書になっています。
筋肉質な体や引き締まったスタイルは視覚的な魅力であると同時に、「この人の言うトレーニングや栄養法は効果があるはずだ」という信頼の根拠にもなっています。
しかし同時に、SNS利用者の間では「自分と似ている身近な存在」に共感しやすいという新たな傾向も指摘されています。
親近感を覚える相手の発信には心を動かされやすく、逆にあまりに完璧すぎる人には圧倒されて距離を感じてしまうこともあります。
特にフィットネスの世界では、美しく鍛え抜かれた身体は憧れの的になる一方で、「自分とは違いすぎて無理…」とフォロワーに思わせてしまう危険もあります。
たとえば、あなたがスポーツや勉強をするとき、すぐ近くにいる「少しだけ上手な先輩」を見ていると、「自分も同じようになりたい!」と勇気が湧いてきませんか?
よくある子供時代の話で「クラスの足の速い子に勝つために走る練習をする」というものがありますが、これも少し上の存在に直接的に触発されて頑張っている典型です。
一方で、オリンピック選手の競技を見て「自分も同じようになりたい!」と思う人はあまりいないでしょう。
あまりにも遠い存在を見ても「すごいけど自分には絶対無理だ」と感じてしまい、逆にやる気を失ってしまうかもしれません。
少なくとも子供にとって走り込みの練習をする動機としては「クラスのライバル>オリンピック選手」であるはずです。
心理学の世界でも、このように「自分のレベルから少しだけ上の人」を目標にすると、やる気が出やすいことがわかっています。
このことを難しい言葉で「最近接発達領域」といいますが、つまり「頑張れば届く距離に目標を置くのが効果的だ」ということです。
フィットネス系のSNSでも、遠すぎる完璧な存在ではなく、「頑張れば近づけそうな存在」が求められている可能性があります。
こうした背景から、米国の研究チームはフィットネス系インフルエンサーの外見の魅力度が、フォロワーにどのような影響を与えるかを詳しく調べました。
特に、「極端に魅力的な見た目」がフォロワーの親近感や反応(いいね・フォローなど)にどんな影響を与えるか、もしネガティブな影響があるならどのように和らげられるのかを検証することが目的でした。