美しさが人気を下げる現象

研究では主に3つの実験が行われ、アメリカの成人男女を対象にオンラインでフィットネス投稿に対する反応を調査しました。
いずれの実験でも基本的に架空のInstagram投稿を見てもらい、その投稿主(フィットネスインフルエンサー)に対する印象や、自分なら「いいね」やフォローをするかといったエンゲージメント(反応や関与)の意向を評価してもらいました。
まず最初の実験では、フィットネス投稿の写真に写るインフルエンサーの魅力度を操作しました。
使われたのは、
高い魅力度の女性フィットネスインフルエンサーの写真付き投稿
適度な魅力度の女性フィットネスインフルエンサーの写真付き投稿
写真なし(テキストのみの投稿)
の3種類です。
写真以外の投稿文(キャプション)は、全ての条件で共通して「筋トレでは各筋群あたり28〜36回の反復が理想的です」という内容で統一されました。
写真に登場する人物だけを変えることで、インフルエンサーの容姿レベルのみが異なる条件を作り出したのです。
参加者たちには、投稿を見た後でいくつかの評価をしてもらいました。
例えば、その投稿を見て「親近感を持てるか(自分と近いと感じるか)」「信頼できそうか」「好感が持てるか」「魅力的か」をそれぞれ評価してもらいました。
また、その投稿に対して「いいねをしたいか」「フォローをしたいか」という気持ちも聞きました。
さらに、投稿を見たことで「自分自身に対する自信(自己評価)」がどのように変化したかも調べました。
その結果、とても興味深いことが分かりました。
それは、「極端に魅力的なインフルエンサーを見た人ほど、そのインフルエンサーを身近に感じられなくなる」ということです。
つまり、魅力がありすぎると、逆に親近感を持てず、距離を感じてしまうのです。
具体的に数字で見ると、親近感の評価(7点満点)は、「非常に美しいインフルエンサー」では平均約3.9点でした。
それに対して、「ほどほどに魅力的なインフルエンサー」は約5.0点、「写真なしの投稿」は約4.8点でした。
つまり、「ほどほどの魅力」と「写真なし」の場合は差があまりないのに、「非常に美しい人」の場合だけ急に親近感が下がったことになります。
さらに重要なことに、こうした親近感の違いは、「いいね」や「フォローしたい」という気持ちにも直接影響しました。
非常に美しいインフルエンサーの投稿を見た人は、平均約3.4点で、「ほどほどに魅力的なインフルエンサー」(約4.3点)に比べて「いいね」や「フォローしたい」という気持ちがかなり低くなりました。
写真なしの場合は約3.85点で、非常に美しいインフルエンサーよりは少し高いですが、統計的には明確な差ではありませんでした。
このことからも、「ほどほどの魅力のほうが最も支持されやすく、極端に美しい人の投稿は支持されにくい」という結果が確認されました。
また、投稿を見たことで、参加者自身の自己評価にも影響がありました。
非常に美しいインフルエンサーの投稿を見た人は、自分への自信(自己評価)が低下する傾向がはっきりと見られました。
逆に、ほどほどに魅力的なインフルエンサーを見た人は、自分への自信がわずかに向上しました。
つまり、あまりにも完璧な人を見ると「自分には無理だ…」と落ち込んでしまうのですが、自分に近い「ほどほどのモデル」を見ると「自分も頑張れば近づけるかも!」と自信を持つことができたのです。
こうした「極端な美貌がかえってマイナスに働く」という現象を、研究チームは「ビューティ・バックファイア効果」と名付けました。
この言葉は「美しさが逆効果を起こす」という意味で、SNS上では美しすぎると逆に人々の心を離してしまう可能性があることを示しています。