インフルエンサーに必要なものは何か?

「美人は得をする」と信じられてきた中で示された、美しさの意外な落とし穴――この研究はSNS時代における新しい教訓を伝えています。
それは、フィットネスSNSのように「お手本」としての役割を期待される場では、あまりに完璧すぎる見た目はかえってフォロワーの共感を遠ざけ、熱心な支持を得にくくしてしまう可能性があるということです。
従来のマーケティングで語られてきた「魅力的な人ならみんな憧れるはず」という図式に対し、本研究は「憧れが強すぎると人はかえって心を閉ざしてしまう」という逆説的な現象をデータで示しました。
これはSNSが主流となった現代ならではの発見と言えるでしょう。
というのも、SNSでは双方向のやり取りやフォロワーとの距離感が重視されるため、テレビCMのように一方的に憧れを押し付けるだけでは不十分で、「この人は自分に寄り添ってくれる存在だ」と感じさせる親近感や信頼感が欠かせないからです。
特に若い世代や女性は、SNS上の美しい人と自分を比較して落ち込んでしまうことが指摘されています。
この研究でも、実際に極端に美しいインフルエンサーの投稿を見た参加者全体で、自分への自信が低下する傾向が見られました。
一方で、身近に感じられるレベルのモデルを見た場合には自己評価が上がる効果すらありました。
これは、SNSで理想的すぎる美や成功例ばかり見て「自分なんて…」と落ち込むより、少し自分に近い存在からリアルな努力や身近なアドバイスをもらったほうが前向きになれることを示しています。
つまり私たち一般のフォロワーにとっても、SNSで誰をフォローするかによってモチベーションの保ち方が変わる可能性があるのです。
もしSNSで自己嫌悪を感じるようなことがあれば、フォローする相手を「完璧すぎる人」から「少し身近に感じられる人」に見直してみるのも一つの手かもしれません。
理想は理想として眺めるよりも、「自分でも頑張ればああなれるかも」と思わせてくれる身近なロールモデルを見つける方が、心の健康には良さそうです。
一方、インフルエンサーや発信者の側へのメッセージも明確です。
フィットネスに限らず、もしあなたが恵まれたルックスや才能を持っていたとしても、ただそれを誇示するだけでは人々の心は動かせないかもしれません。
しかし伝え方次第でその問題を乗り越えることができると本研究は示しています。
「美の逆効果」は決して「美人は絶対に損をする」という意味ではなく、「美人で得をしていた人ほど、謙虚さを忘れると痛い目を見る」という戒めと言えるでしょう。
研究チームは、謙虚な自己表現を使うことで美しさによる逆効果を和らげられると明らかにしました。
実際、本研究では完璧な見た目のインフルエンサーでも謙虚な姿勢を示すことで、親近感の差がほぼなくなり、フォロワーからの反応の低下も抑えられたのです。
言い換えれば、フォロワーとの心理的な距離を縮めるためには、「見た目の完璧さ」よりも「人間味や共感」を示す戦略が有効だということです。
「美の逆効果」を防ぐ鍵は、「謙虚さ」や「ありのままの姿」にあると言えるでしょう。
ただし、この研究にも留意すべき点はあります。
実験ではアメリカの成人男女が主な対象であり、全ての文化圏で同じ結果になるとは限りません。
例えば日本や他の国では結果が異なる可能性があります。
また、SNSを見る側の性別や年齢、元々持っている自己評価や自信によっても、反応が変わることがあるでしょう。
実際、研究チームが行った別の実験では、極端に魅力的な女性インフルエンサーが特に厳しく評価される傾向が示され、男性インフルエンサーの場合は女性ほど強い影響が出ないことも確認されています。
このように、人々が「美しさ」にどう反応するかはさまざまな要因で変化するため、今後さらに詳しい研究が求められます。
それでも、本研究の示すメッセージはSNS社会において重要な教訓を与えてくれます。
誰もがフィルターや加工で「より美しく、完璧に」と見せたくなるSNSだからこそ、完璧すぎる見た目には思わぬ落とし穴があることを心得るべきでしょう。
完璧に鍛え上げられた人は人でその完成度とそこまでの努力に感心しますけどね。
その関心は共感とは違うのでそれが必要なことにはプラスに働かないってことですね。