【まとめ】RNAとアミノ酸の「最初の出会い」を再現
今回の研究は、「生命はどのようにして地球に誕生したのか?」という、人類が抱き続けてきた大きな謎を解くための重要な前進を示しています。
この謎を解くカギの一つは、生命を支えるタンパク質がどのようにして初めて作られたのかを理解することです。
タンパク質は、生き物の身体や機能をつくるための中心的な存在ですが、それ自体はDNAやRNAの情報がなければ生まれることができません。
タンパク質はアミノ酸が一定の順序でつながった分子ですが、このアミノ酸をどの順序でつなぐかという設計図の役割を担っているのが「RNA(リボ核酸)」という分子です。
これまでは、アミノ酸をRNAにつなげるという重要なステップは、生物の細胞にある特殊なタンパク質(酵素)がなければ起こらないと考えられていました。
しかし、最初の生命が誕生した頃には、こうした便利な酵素は存在しなかったはずです。
そのため、多くの科学者が「RNAにアミノ酸を自然につなげる方法」を模索してきましたが、長い間うまくいきませんでした。
その難問を解決したのが今回の研究です。
研究チームは「チオエステル」という硫黄を含む特別な化合物を使うことで、酵素の力を借りずにRNAへアミノ酸を選んで結合させることに成功しました。
しかも、この反応は生命が生まれたばかりの原始的な地球の環境に近い、穏やかな条件下(中性の水の中)で進んだのです。
これは生命が誕生したとされる環境を考える上で非常に重要な意味を持っています。
また、この「チオエステル」は、現在の生物の中でもエネルギーを運ぶ役割を担っています。
つまり、この分子は生命の起源から現在まで、ずっと生命活動のエネルギー源として働き続けてきたと考えられます。
こうした事実は、ノーベル賞を受賞した科学者クリスチャン・ド・デューブが提唱した「チオエステルワールド仮説」とよく一致しています。
ド・デューブの仮説によれば、初期の生命では硫黄化合物(チオエステル)がエネルギーを供給し、生命活動を支えていたとされています。
一方、生命の起源についての別の代表的な考え方に「RNAワールド仮説」というものがあります。
こちらはRNAが遺伝情報を保ち、同時に化学反応を起こす役割を果たしていたという説です。
今回の研究成果は、この「RNAワールド」と「チオエステルワールド」という二つの仮説を結びつける新しい可能性を示したのです。
つまり、遺伝情報を伝えるRNAとエネルギー源のチオエステルが協力することで、最初の生命が動き始めたのではないかというシナリオを、現実味をもって示したことになります。
このように、「生命誕生」というとても複雑な謎が、意外にもシンプルな化学反応の組み合わせで説明可能になるかもしれない、ということが今回の重要な成果なのです。
しかし、もちろん生命の誕生をすべて解き明かすには、まだ解決すべき重要な課題があります。
特に重要なのは、「遺伝暗号」と呼ばれる仕組みがどのようにして生まれたのかという問題です。
遺伝暗号とは、RNAの特定の配列(並び方)が特定のアミノ酸と結びついているというルールのことです。
現在の生命は、この遺伝暗号のおかげで、RNAの情報をもとに正確にアミノ酸を並べてタンパク質を作っています。
しかし、このような精密なルールが初期の生命でどのように生まれたのかは、まだわかっていません。
研究チーム自身も、「タンパク質合成の起源という、もっとも困難でエキサイティングな問題が残っています」と述べ、この課題に取り組む意欲を示しています。
もしこの遺伝暗号の謎が解ければ、生命がどのようにして地球上で誕生したのかを説明する、さらに大きな手がかりが得られるでしょう。
また、今回明らかにしたような化学反応を積み重ねていくことで、より実際の生命誕生の状況に近い仕組みを実験室で再現できるかもしれません。
これは将来的に、私たちが「自分たちの存在の根源」を理解するための重要な手がかりになることが期待されるのです。