最初にRNAとタンパク質をくっつけたのは誰?

生命はとても複雑ですが、分子のレベルで見ると主役になっているのは「タンパク質」です。
タンパク質は爪や皮膚や髪だけでなく、体の中のさまざまな働きを担う重要な分子です。
ただし、タンパク質は自分だけで自分を作り出すことはできません。
なぜなら、タンパク質は「アミノ酸」と呼ばれる小さなパーツがたくさんつながってできていて、どのような順番でつなぐかを示す「設計図」が必要だからです。
ここでいう設計図の役割を果たしているのが「核酸」と呼ばれる分子です。
特によく知られているのは「DNA(デオキシリボ核酸)」です。
DNAは生物の設計図を長期間保存する役割を持ちます。
でも、DNAはそのままではタンパク質を作る指示を出すことができません。
細胞がタンパク質を作るときには、DNAの情報を「RNA(リボ核酸)」という別の核酸分子にまずコピーします。
このRNAが持つ情報をもとに、材料となるアミノ酸が一つずつ組み込まれていき、実際のタンパク質合成が行われます。
ここで、「アミノ酸がどうやって運ばれるの?」という疑問が生まれるかもしれません。
アミノ酸は工場の部品のようなもので、それを運ぶトラックが「tRNA(転移RNA)」です。
この小さなRNAは、アミノ酸をしっかり運んで、組み立て場である「リボソーム」(タンパク質を組み立てる場所)に届けます。
ところが、この「tRNA」にアミノ酸を積み込む作業は、実はとても大変です。
この積み込みには「アミノアシルtRNA合成酵素」という特別な種類の酵素(生き物が持つ触媒役のタンパク質)が必要です。
でも、この酵素自体もタンパク質でできています。
つまり「タンパク質を作るためにはまず酵素が必要だが、その酵素はタンパク質でできている」という、ぐるぐると回る“堂々巡り”の問題が生じます。
これはよく言われる「鶏が先か卵が先か」というジレンマにそっくりです。
つまり、「最初の生命がどのようにして始まったのか?」という問いは、とても難しいものなのです。
この難題に対して、科学者たちは「生命の初期にタンパク質合成はどうやって始まったのか?」という疑問をもとに、いくつもの仮説を考えました。
その代表例が「RNAワールド仮説」と「チオエステルワールド仮説」です。
RNAワールド仮説は、DNAやタンパク質よりも前にRNAが主役だったと考える説です。
RNAは情報を持ちながら、簡単な化学反応を進める“便利な分子”でもあるからです。
一方、チオエステルワールド仮説は、硫黄を含んだチオエステルという化学物質が、初期生命のエネルギー源になっていたという考え方です。
チオエステルは、生物が活動するのに必要なエネルギーを運ぶ大切な役割を担っていた可能性があります。
しかし、これらの仮説にも大きな課題が残されていました。
たとえば「RNAとアミノ酸をつなぐ反応」が、水がたくさんある自然の中ではうまく進まなかったのです。
なぜかというと、アミノ酸をRNAにつなげるためには「活性化」(反応しやすくするための工夫)が必要ですが、活性化されたアミノ酸は水の中ですぐに壊れてしまい、長く持ちませんでした。
そのせいで、狙った反応よりもアミノ酸同士が勝手につながってしまう「無秩序な重合」という副反応が多く起きてしまい、RNAとアミノ酸をうまく結びつけるのが難しかったのです。
こうした問題を解決するため、今回の研究では「高度な酵素を使わず、なおかつ水の中で安定して進むシンプルな化学反応」を探し出すことが大きな目標となりました。
すなわち、RNAワールド仮説とチオエステルワールド仮説の間を橋渡しできるような新しい化学反応を発見し、「生命が最初にどのようにしてタンパク質合成を始めたのか」という謎に近づこうとしたのです。