DNAカセットテープは人類の全音楽を保存できる
DNAカセットテープは人類の全音楽を保存できる / Credit:Canva
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DNAカセットテープは人類の全音楽を最大2万年も保存できる (2/3)

2025.09.12 19:30:59 Friday

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DNAカセットテープは全人類の音楽を保存できる

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このテープは、まず細長いプラスチック状のテープの表面にバーコード模様が印刷されていて、このバーコードがテープ上の「住所」を示す目印になります。そしてバーコードごとにテープの表面が細かく区切られていて、それぞれの区画(パーティション)には異なるデジタルデータを持つDNAが個別に収められています。つまり、テープはまるで小さな引き出しが無数に並んだ棚のように機能していて、各引き出し(区画)の場所をバーコードが正確に教えてくれるというイメージです。 さらに各区画には「DMRM(何度も保存し、何度も取り出せる)」という機能があり、一度保存したデータを取り出した後でも、新しいデータを繰り返し保存できます。テープの表面にDNAを固定したあとは、「クリスタルアーマー」という特殊な結晶でDNA全体を覆い、数百年という非常に長い期間データを保護します。また、この結晶のコーティングは必要な時に簡単に取り除くこともできるので、データを取り出す際の作業も迅速かつ容易に行えます。こうした仕組みにより、このDNAカセットテープは大量のデータを省スペースで効率よく、長期間にわたり安全に保存できる画期的な媒体となっています。/Credit:A compact cassette tape for DNA-based data storage

研究チームが今回開発した「DNAカセットテープ」は、その名前の通り、DNAをテープの形で保存するという新しい仕組みです。

では、このDNAカセットテープとは実際にはどんな構造になっているのでしょうか?

まず、研究チームは、ポリエステルとナイロンという2種類のプラスチック素材を使い、特殊な薄いフィルム状のテープを作りました。

この2つの素材は、柔らかくて丈夫な性質があるため、細長いテープに加工するのに適しています。

その薄いテープの表面には、スーパーやコンビニの商品にも貼られているような「バーコード模様」を特別な方法で印刷しました。

しかし、このバーコードは単なる印刷ではありません。

このバーコードの白い部分(スペース)は、水分を吸収しやすい「親水性」という性質を持っています。

反対に黒い部分(バー)は、水分をはじく「撥水性」の性質を持っていて、隣の白い部分との仕切りの役割を果たします。

こうしてテープの表面は、バーコードによって細かく仕切られた、何十万もの小さな「データ保存場所(パーティション)」に区切られました。

これらの区画には、それぞれに固有のバーコードがついており、これがデータを探す時に必要な「住所」の役割を果たします。

では実際に、このテープにどのようにデジタルデータを保存するのでしょうか?

例えば、文章や写真、音楽ファイルなどのデジタルデータは、実は「0」と「1」という数字の組み合わせで作られています。

これをまず、DNAを構成する4つの文字「A・T・C・G」の組み合わせに変換します。

これはあたかも日本語を英語に翻訳するような作業です。

その変換した情報をもとに、実験室で合成したDNA分子を小さな液滴に混ぜ、その液滴をバーコードの白いスペース部分に慎重に染み込ませます。

こうすることで、DNA分子がテープに固定され、情報が書き込まれるのです。

ここでひとつ問題が生まれます。

もしもテープに保存した情報を後で読み出したいと思ったとき、一体どうやってその情報を探せばよいのでしょう?

そこで活躍するのが先ほど登場した「バーコード」です。

DNAテープの各バーコードは、本棚の本の背表紙や図書館の蔵書番号のような役割を果たします。

つまり、バーコードをスキャナーで読み取ることで、自分が探しているファイルの場所(住所)を素早く見つけられる仕組みになっています。

実際にこの仕組みを使うと、1秒間に最大1570個のデータ区画の住所を特定することが可能です。

ただし、データの住所が見つかった後、実際にDNAを取り出して情報を再生するための化学処理にはさらに数十分の時間が必要となります。

さらに研究チームは、このDNAテープのデータを管理するための専用の装置「DNAテープドライブ」も開発しました。

この装置は、見た目は昔のビデオテープレコーダーやカセットデッキに似ています。

カセットの形をしたDNAテープをセットすると、自動でテープを巻き取りながら指定したバーコード区画まで移動し、その場所で必要な化学処理を行い、DNAからデータを読み出す仕組みです。

逆に、新しいDNAファイルを書き込む操作も画面をタッチするだけで自動的に行われます。

DNAのデータ回収には約25分、さらに新しく書き込みを加えると全部で約50分ほどの時間がかかります。

研究チームは、この新しい技術を実際に試すために、1枚の画像データを4つのパズルのピースのように分割しました。

それぞれのピースを個別にDNAの情報に変換し、DNAテープ上の異なる4つの場所に保存したのです。

そして、DNAテープドライブに指示を与えて、この4つに分割した画像のピースデータを順番に取り出し、それらを再び元通りの1枚の画像に復元する実験を行いました。

結果は見事成功し、この一連の作業は約50分で終了しました。

この実験は、DNAテープとドライブ装置が正確かつ安定して動作し、実際にデータを保存して取り出せることを証明する重要な結果となりました。

さらに、研究チームはDNAに保存したデータを数百年以上という長期間にわたって安定して保つための工夫も行いました。

それが「ZIF(結晶性保護層)」という特殊な結晶コーティング(クリスタルアーマー)です。

DNAを塗布したテープ全体を特殊な溶液に浸すと、「金属有機構造体(ZIF)」と呼ばれるナノサイズの小さな結晶が、DNAの表面を鎧のように覆います。

この結晶の保護層は、DNAが壊れたり分解したりするのを防いでくれる役割を果たします。

この方法により、室温の環境では約345年間、さらに気温が低い寒冷地では約2万年という、非常に長い期間にわたりデータを安定して保てることが示されています。

しかも、この保護層は特殊な酸性の溶液を使えば約15秒という短い時間で簡単に溶かして除去でき、その後、再び約10分ほどで元の状態に戻すことも可能です。

まるで、大切な宝物を取り出すときだけ素早く開けられる、頑丈で便利な宝箱のようなイメージです。

最後に、このDNAテープが持つ驚異的なデータ容量について触れておきましょう。

研究チームは実験で、テープ上の1つの区画に約156キロバイトの画像データを実際に保存し、取り出すことに成功しました。

この実験結果から計算すると、DNAテープ1キロメートルあたりの実際のデータ容量を概算すると約74.7ギガバイト(GB)になることがわかりました。

これでもかなり大きな容量ですが、さらに理論的な最大限の能力を引き出すことができれば、1キロメートルあたり最大362ペタバイト(PB)もの情報を記録できる可能性があります。

この容量をもう少し具体的に言えば、100メートルのテープに換算すると約36ペタバイト(=36,000テラバイト)となります。

一般的なカセットテープが70~180mであることを考えると100mは中間的な長さになります。

また1曲を10メガバイト(MB)と仮定すると、36ペタバイトは約36億曲分に相当します。

全世界の録音された楽曲数が約1億~2億曲規模(最大級のストリーミングサービスで1億曲ほど)であると言われていることから、このDNAテープは理論上、たった100mで世界中で作られたすべての音楽を保存してもまだ十分余裕があるほどの容量を持っていると言えるでしょう。

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