歯のエナメル質を修復するジェルが誕生――虫歯治療に革命か?
歯のエナメル質を修復するジェルが誕生――虫歯治療に革命か? / Credit:Canva
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歯のエナメル質を修復するジェルが誕生――虫歯治療に革命か? (2/3)

2025.11.07 20:00:14 Friday

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「唾液を活用する」エナメル再生ジェルの仕組み

エナメル質の再生を求めて研究者たちはまず、エナメル質形成の仕組みを模倣した画期的なタンパク質ジェルを開発しました。

このジェルは一見すると歯医者さんで使うフッ素塗布剤のようですが、中身は全く新しいものです。

ジェル自体はフッ素を含まず、代わりにエナメル質を育てるタンパク質(アメロゲニン)の働きを模倣する分子でできています。

歯の表面に塗るとすぐに薄い被膜状に広がり、細かな傷や穴を埋めるように歯質に浸み込みます。

この薄い被膜こそが人工の「足場」です。

しかし足場だけでは、エナメル質の材料となるミネラル(カルシウムやリン酸)がなければ結晶は成長できません。

そこで新しいタンパク質ジェルには、唾液に含まれるカルシウムイオンやリン酸イオンを自然に引き寄せるしくみが組み込まれました。

タンパク質ジェルの準備が整うと、次に研究者たちは本物の歯を使った実験を行いました。

ヒトの歯のサンプルを用い、表面のエナメル質を人工的に一部溶かしたうえで標準的な清掃と酸処理ののちにジェルを塗布し、人工唾液に浸して経過を観察しました。

すると、わずか10日〜2週間程度で失われていた部分に新しいエナメル質の結晶が成長しました。

再生したエナメル質の結晶は下地のエナメル質と同じ方向に並び、一体化するように結合していました。

これは、ジェルが作る足場が下地の結晶と同じ並び(結晶の方向)を再現したためです。

そのおかげで再生部分も含めて歯の表面が滑らかに埋まり、見た目にも機能的にも健康なエナメル質が蘇ったといえます。

左はエナメル質が溶けている状態、右はエナメル質が再生した状態
左はエナメル質が溶けている状態、右はエナメル質が再生した状態 / Credit:Biomimetic supramolecular protein matrix restores structure and properties of human dental enamel

左の画像は酸でエナメル質が溶けて、結晶がボロボロになった状態ですが、右の画像では2週間のジェル処置後にエナメル質の結晶が林のように垂直方向へ整然と伸びているのがわかります。こ

うして結晶がきれいに並んで埋まったことで、エナメル質の強度と構造がほぼ元通りに回復したのです。

では、その再生エナメル質の性能(硬さや耐久性)は本物といえるのでしょうか?

研究チームは再生後の歯にさまざまな試験を行いました。

歯磨き・咀嚼(そしゃく)・酸への曝露など、日常生活とほぼ同じ条件の摩耗試験を実施したところ、再生したエナメル質はまるで健康な天然エナメル質と同じように安定していました。

さらに硬さや摩擦係数、耐摩耗性の測定でも、処置前にスカスカだった歯が処置後には主要な指標で健常歯に近い値(約9割前後)を示しました。

つまり見た目だけでなく、物理的な強度まで天然のエナメル質に迫る水準まで回復したのです。

さらにこのジェルの優れた点は、一様に薄くコーティングするだけで作用するため、歯科医院での応用もしやすいことです。

実験では、歯科で行うフッ素塗布とほぼ同じ要領で歯に塗り、3〜4分ほど待つだけで被膜が形成されました。

特殊な機械や外科的処置も不要で、患者にとっても塗るだけの簡単な処置になり得ます。

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