病気になるとボッチになる脳スイッチを発見
病気になるとボッチになる脳スイッチを発見 / Credit:Canva
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病気になるとボッチになる脳スイッチを発見

2025.12.03 21:00:00 Wednesday

風邪やインフルエンザでぐったりしているとき、「今日は誰にも会いたくない、一人で寝ていたい」と感じることがあると思います。

日本の慶応大学とアメリカのMIT(マサチューセッツ工科大学)そしてハーバード大学によって行われたマウス研究により、この「ボッチになりたい気分」が単なる体力不足ではなく脳内にあるボッチ専用回路の働きである可能性が示されました。

研究では感染して炎症が起こると特定の免疫分子が増加してそれがセロトニンを出す神経が多い脳領域に影響を与えることで「ひとりになりたい」神経回路がオンになることが示されています。

つまり「だるさ」と「ボッチ化」は脳の中では別々の仕組みで動いており、少なくともマウスでは病気のときの自己隔離は、脳が自ら選ぶ“行動モード”であることが示されてきました。

私たち人間の脳でも同じような“ボッチ専用スイッチ”が働いているのでしょうか?

研究内容の詳細は2025年11月25日に『Cell』にて発表されました。

IL-1R1-positive dorsal raphe neurons drive self-imposed social withdrawal in sickness https://doi.org/10.1016/j.cell.2025.10.040

病気でだるいから「仲間との交流」を避けているのか?

病気でだるいから「仲間との交流」を避けているのか?
病気でだるいから「仲間との交流」を避けているのか? / Credit:IL-1R1-positive dorsal raphe neurons drive self-imposed social withdrawal in sickness

風邪をひいたとき、LINEの通知すら開きたくないことがあるのは、気のせいではないのかもしれません。

病気で寝込んでいるとき、普段なら楽しいはずの友達との会話も「今日はいいや」と感じてしまうことがあります。

これは人間だけでなく、動物でもよく見られる反応です。

例えば、実験用マウスが細菌の成分を注射されて「病気モード」になると、同じケージの仲間から少し離れた場所でじっとする時間が増えることが本研究などで示されていました。

一種の「自分から距離を取るソーシャルディスタンス」です。

これまで、この行動は「体がだるくて動きたくないだけ」だと考えられてきました。

熱や関節痛、筋肉痛など、いわゆるシックネス・ビヘイビア(sickness behavior:病気のとき特有の行動)全体の一部として、まとめて説明されていたのです。

確かに、寝込んでいるときに友達の家まで遊びに行くのは大変ですから、「動けないから結果的に一人になる」という説明でも、なんとなく納得できてしまいます。

しかし、生物学の世界では以前から「もしかすると、もっと積極的な意味があるのでは?」と考えられてきました。

たとえばアリやコウモリなどでも、感染すると自分から巣の外れに移動したり、健康な個体が病気の仲間を避けたりする「自然のソーシャルディスタンス」が報告されています。

自らボッチになる「自己隔離」を選ぶことで、危険な感染症が群れ全体に広がることを防ぐことが可能になります。

では、この「病気になるとボッチになる」行動は、本当にが意図的に作り出しているのでしょうか。

それとも、やはり体がしんどい結果として、たまたまそう見えているだけなのでしょうか。

もし脳の中に「ぼっち専用回路」が隠れているとしたら、それはいったいどこにあり、どんなスイッチでオンになるのでしょうか。

今回の研究は、このモヤモヤした疑問に、「免疫」と「脳回路」をつなぐ形で答えに行きました。

次ページ「今日は誰にも会いたくない」をつくる“ボッチ専用回路”

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