病気になるとボッチになる脳スイッチを発見
病気になるとボッチになる脳スイッチを発見 / Credit:Canva
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病気になるとボッチになる脳スイッチを発見 (2/3)

2025.12.03 21:00:00 Wednesday

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「今日は誰にも会いたくない」をつくる“ボッチ専用回路”

「今日は誰にも会いたくない」をつくる“ボッチ専用回路”
「今日は誰にも会いたくない」をつくる“ボッチ専用回路” / Credit:Canva

まず研究チームは、「病気のときの行動」をマウスで再現するところから始めました。

細菌の外側にある成分をマウスに注射して、全身が炎症を起こした状態を作ります。

マウスの免疫システムは細菌の特徴をすばやく識別するしくみを持っているため、細菌の一部が入り込んだだけで全身の免疫が活性化を起こすのです。

(※この成分は略してLPSと呼ばれ、免疫を強く刺激する物質としてよく免疫学の研究で用いられます)

するとマウスは、全体の動きがにぶくなるだけでなく、同じケージの仲間から距離を取り、自分から“ボッチポジション”に移動するようになりました。

次に、「いったいどの“免疫からのメッセージ”がこの行動を引き起こしているのか?」を調べました。

一般に感染が起こると「細菌の侵入➔免疫細胞が反応➔免疫分子の放出➔だるくなる&ボッチ化」という順番でイベントが起こるため、ボッチ化を促す役割を持った免疫分子が存在するかもしれないからです。

そこで研究者たちは、の中に21種類の免疫分子(サイトカイン)を1種類ずつ直接入れ、マウスの行動を比較しました。

すると、IL-1βという免疫分子を注射されたマウスたちは、細菌の表面にある物質を注射した時と同じように、「仲間から離れる行動」と「活動量の低下」のセットを再現できることがわかりました。

この結果はIL-1βが「ボッチ化分子」である可能性を示しています。

そこで研究者たちは、この「ボッチ化分子」を受け取る部位(受容体:IL-1R1)が脳のどこにあるかを詳しく調べました。

その結果、脳幹にある「縫線核背側部」という場所にあるセロトニンを出す神経細胞たちに「ボッチ化分子」を受け取る部位があることが判明します。

そしてIL-1βを脳内に入れると、この集団が強く活動することも分かりました。

また興味深いことに研究では、この脳領域にある「ボッチ化分子」を受け取る神経細胞たちが、本当に「ボッチ専用回路」であることも確かめられました。

さらに面白いのは、ボッチ専用回路の操作実験です。

研究者たちは先ほどと同じように細菌の一部をマウスに注射して感染状態を模倣させました。

するとマウスは体はだるそうでボッチ状態になります。

次に研究者たちは、この状態のマウスの「ボッチ専用回路」をOFF状態にしてみました。

すると驚くべきことに、だるそうにボッチになっていたマウスたちが、非感染時のように仲間の元に戻る行動を見せたのです。

(※回路の操作にあたっては、特定の細胞だけを薬でON、OFFにできる化学遺伝学という手法を用いました)

ここで重要なのは、OFFにしたのはボッチ専用回路だけであり、マウスは感染状態に伴うだるさは残っていたという点です。

つまり「だるさ(低活動)」と「ボッチになる(社会的ひきこもり)」が、脳の中では別々の仕組みで動いている可能性を示しています。

最後に、本物の感染でも同じ仕組みが働くかを確かめるため、サルモネラ菌という細菌でマウスに感染を起こしました。

感染したマウスは、時間とともに自分から仲間から離れる「自己隔離行動」を示します。

しかし、ボッチ専用回路が働かないように遺伝的に操作すると、この自己隔離が大きく弱まりました。

以上の結果は、感染した時は「だるいから結果的にボッチになる」のではなく、感染に伴い「だるさ」と「ボッチ化」が別々のシステムで起動されていることを示しています。

次ページ健康な脳にも「ボッチ化回路」が存在するという発見

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