生殖を止めるとメスの寿命が延びる理由、人間では?
メスは、オスとはまったく別の理由で寿命が延びていました。
メスの生殖は、妊娠・出産・授乳・子育てといった一連のプロセスを通じて、長期間にわたり大量のエネルギーと栄養、そして体への負担を必要とします。
特に妊娠中や授乳中は、胎児や授乳のために免疫や代謝が変化し、感染症にかかりやすくなることが知られています。
研究チームは、避妊薬や不妊手術によって妊娠しないようにされたメスと、普通に出産・授乳を行ったメスを比較しました。
その結果、妊娠や出産を経験したメスのほうが、感染症や感染症関連の合併症で死亡する割合が高く、逆に生殖を止められたメスでは、感染症による死亡リスクが約13%低いことが分かりました。
つまり、メスの寿命が延びる大きな理由は「ホルモンが変わること」ではなく、「妊娠・出産・授乳という重い負担から体が解放されること」だと考えられます。
生殖に使っていたエネルギーや体力を、体の修復や免疫に回せるようになった結果、長生きしやすくなっているというイメージです。
これらの結果から分かる通り、生殖を止めると動物の寿命は延びますが、オスとメスではその理由が異なるのです。
さらに研究チームは、マウスやラットなどのげっ歯類を対象に、「どれくらい元気な状態で年を取れるか」という健康寿命も調べました。
その結果、オスでは去勢によって、年を取ってからの記憶力や体のバランス能力が良くなる傾向が見られました。
メスでは卵巣を取ることで生殖器の腫瘍が減る一方、活動量や認知機能が下がってしまうケースもあり、「良い面」と「悪い面」が両方あることも浮かび上がりました。
また、避妊・不妊の効果は、動物園などの飼育環境よりも、エサや安全が限られた野生環境のほうがより強く表れる傾向も示されました。
野生ではエネルギーが常に不足しがちで、妊娠や授乳の負担がより深刻なダメージになりやすいからです。
では、この結果は人間にも当てはまるのでしょうか。
研究チームは慎重な姿勢を保ちながらも、いくつかの興味深い示唆を挙げています。
まず男性については、歴史的な記録から、去勢された男性(いわゆる宦官)は、去勢されていない男性に比べておよそ18%ほど生存率が高かったというデータがあります。
これは、今回の動物データとよく似た傾向であり、「性ホルモンが強く働くほど、寿命は短くなりやすい」という考えを後押しします。
女性については、閉経によって中年期以降に生殖が終わることで、「長く生きることに繋がる可能性」があると研究チームは指摘しています。
子どもを産み続ける代わりに、自分の体を守りながら長生きして、子や孫の世話をすることで、一族全体の生存率を高めるという仮説を後押しするものかもしれません。
一方で、人間の女性では卵巣を摘出するような外科的な不妊手術が、必ずしも寿命の延長につながらず、むしろ老年期の健康を損なう可能性があるという報告もあります。
研究チームが強調しているのは、こうした違いを踏まえたうえでもなお、「子どもを作ろうと体を働かせる仕組み自体が、脊椎動物の寿命を広い範囲で左右している」という点です。
生き物たちの体はいつも、「子孫を残すこと」と「自分の命をどこまで長く保つか」という、見えない綱引きの上に成り立っているのかもしれません。




























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